2017 Fiscal Year Research-status Report
生体分子の水素水和研究に向けた、中性子結晶解析用D/Hコントラスト法の開発
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16K05014
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
茶竹 俊行 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (30383475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (10354888)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中性子 / 結晶学 / D/Hコントラスト法 / 水和構造 / 生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素原子は生体を構成する分子(生体分子)の約半分を占める原子であり、また、生体分子は水溶液中に存在しており、その周辺の水分子も酸素原子と水素原子の化合物である。中性子結晶解析はこの水素原子の観測に適した実験方法である。この水素原子の観測により特化した手法として、我々は中性子線の重水素と軽水素に対する散乱長の違いを利用する重水素/軽水素コントラスト法を中性子結晶解析に適用して、解析の効率と精度を飛躍的に向上させることを目指している。特に、我々が学術誌に最近発表した実空間D/Hコントラス法による中性子結晶解析は、簡便で高精度かつ高効率の構造解析と水素原子の観察が可能となる強力な手法である。 リボヌクレアーゼA(RNase A)を用いた中性子実験で、独自の重水素/軽水素コントラストの計算アルゴリズムを開発して、その有用性を報告している。本研究では、タンパク質内部のプロトネーションと周囲の水和構造に着目して、 (1) RNase Aデータをテストデータとして用いたD/Hコントラストのための解析プログラムの開発、(2) RNase Aを用いての量子ビーム実験、具体的には中性子、X線溶液散乱との比較、さらに、(3)他のタンパク質(リゾチームやインシュリン)などをテストサンプルとして用いた本手法の応用、(4) D/Hコントラストの実用に向けた、ソフトウェアの一般化と整備を目標として、研究を進めている。 前年の成果に基づいて、29年度についても研究を進め、進展状況で述べるようにほぼ所定の目標を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度の実施計画は(1) RNase AのD/Hコントラストの多角的な解析、(2) 中性子実験の準備と実行、(C) D/Hコントラストプログラムの改良と作成であった。以下それぞれについて報告する。 (1) RNase Aの解析:D/Hコントラスト法のプログラム開発と溶液散乱の実験を継続して行い、溶液散乱と結晶解析の結果の比較を試みた。その結果、「定性的」な比較は行うことができた。さらに、溶媒領域の「定量的」な比較を行うためには、改良もしくは逆空間D/Hコントラスト法の適用が必要である。我々の考案した実空間D/Hコントラスト法は構造決定法としては非常に優秀だが、溶媒領域の定量的な解析を行うためには、改良もしくは逆空間D/Hコントラスト法の適用が必要である。さらに、中性子データについても低角領域の高精度データが有用と思われる。 (2) 中性子実験:リゾチームについては、従来進めていた蒸気拡散法による結晶化に加えて、分担研究者が過去に行っていた溶媒拡散法による結晶化を行い、現在、3mm3程度の結晶が得られている。条件の検討により、より大型の結晶を得ることを目指しており、この結晶を用いた中性子実験を計画している。また、インシュリンの結晶化も行い、ブタ由来、ウマ由来、ヒト由来の三種類の結晶化で良質の単結晶を少ない核数で得ることに成功した。これも現在大型結晶化を試みている。また、インシュリンとリゾチームについては放射光を用いてX線実験を行っている。 (3) D/Hコントラストプログラム:Pythonの特性を活かして、それぞれの操作をライブラリー化することによるプログラムの可読性とメンテナンス性の向上に着手して、基本部分についてはできた。これにより、目的である汎用性と安定性についてはかなり向上したと考えられる。 以上、概ね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度は29年度に行った(1)-(3)の結果を発展させて、次の3つについて研究を進めていく。 (A) RNase AのD/Hコントラストの多角的な解析:溶液解析のためのD/Hコントラスト法プログラムの開発を進めて、RNase Aの水和構造について結晶と溶液を統合した解釈を試みる。また、29年度に得られた他の蛋白質のX線結晶解析の結果や30年度で得られた中性子結晶解析のデータも可能ならば統合する。 (B) 中性子実験の準備と実行: リゾチームについては、現時点での結晶の大きさ(3mm3)はJ-PARCの iBIXで推奨されているサイズにかなり近づいている。この結晶もしくはより大型の結晶を用いて中性子実験が実現できるよう努力する。軽水結晶の中性子回折実験を行い、続いて重水結晶の測定を進める予定。インシュリンについても、大型の結晶が得られた場合には実験を試みる。他のタンパク質については、ベータラクトグロブリン、ナットウキナーゼが候補であり、これれについても大型結晶の作成を目指す。 (C) D/Hコントラストプログラムの改良と作成: プログラムについては、すべてのパーツをライブラリとして利用できるようにする。これは汎用化と安定動作に大きく役立つと思われる。また、グラフィカルインターフェースの実装(GUI化)を当初計画していたが、現状のプログラムを統合して、一括処理する形式の方が便利であると思われる。これは、他の結晶解析プログラムでも実装されているCUIモードと同様であり、当初は煩雑さのため断念していたが、改良により対応が可能と期待できる。また、解析に使用するnCNSは現在開発が終了しているため、現在の主流であるphenixで作成される中性子マップにも対応できるよう追加のプログララムを計画している。
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