2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K05023
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
樹神 克明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, 研究主幹 (10313115)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 磁気対相関関数 / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁気対相関関数(磁気PDF)を用いた局所磁気構造解析を可能にするために、(1)様々な磁気配列に対して磁気PDFをシミュレートする方程式の定式化を行い、さらに(2)中性子磁気散乱強度からの磁気PDFの定量的な導出方法を決定した。さらに標準試料を用いた中性子散乱データから(2)の方法で導出した磁気PDFが(1)の方程式で計算されるものと定量的にほぼ一致することを示した。 磁気配列に対する磁気PDFのシミュレーション式はコロンビア大グループによって既に提案されていた。しかしそのシミュレーション式は数密度に比例し距離rに対して線形の負のベースライン項を含んでおらず、さらに局在スピン系だけを想定したものであった。そこで我々はこれらの問題を解決するシミュレーション式を提案した。また磁気PDFを中性子磁気散乱強度データから定量的に導出するために、各種補正を施して強度の絶対値化および規格化を行い構造関数S(Q)を導出し、さらにS(Q)をフーリエ変換して磁気PDFを導出する方法を定式化し、さらに実験データから磁気PDFを導出するマクロを作成した。 さらに単純な磁気構造をもつ強磁性体MnSbおよび反強磁性体MnF2を標準試料として中性子散乱実験を行い、上記の方法で中性子散乱強度データから磁気PDFを導出した。得られた磁気PDFはそれぞれの磁気構造から上で述べた式を用いてシミュレートされる磁気PDFと定量的にほぼ一致することがわかり、上記の磁気PDFのシミュレーション式および磁気PDFの定量的な導出方法の妥当性を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上で述べたように磁気配列から磁気PDFをシミュレートする方程式、および中性子磁気散乱強度からの磁気PDFの定量的な導出方法を決定することができ、さらに標準試料を用いたパルス中性子散乱実験によりそれらが妥当であることを確認することができた。これらによってパルス中性子散乱データを用いた磁気PDF解析の一連の流れをおおむね確立することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のようにパルス中性子を用いた磁気PDF解析の一連の流れはほぼできたので、今後はこの磁気PDF解析法が威力を発揮すると期待される磁気配列が短距離秩序しかもたない物質系の磁気構造解析に適用し、この解析手法の有効性を確認する。まずは異なる磁気配列の競合によって長距離秩序を持つことができずスピングラス状態が実現していると考えられる混晶イルメナイト化合物や関連物質をとりあげ、磁気PDF解析を用いてその短距離磁気配列を調べる。またこれらの系の研究を通じて磁気PDF解析手法の確立を進めていく。
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Causes of Carryover |
試料合成用の試薬の購入量、グローブボックス維持用の高圧ガス、物性測定用の寒剤の使用量が予定していたより少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は磁気PDF解析の有用性を示すことを目的に、短距離秩序しかもたないスピングラス系の中性子散乱実験およびその強度データを用いた磁気PDF解析を行う。そのため実験に用いる混晶系イルメナイト化合物の試料合成を行うが、この系は申請時には測定する予定になかった物質系なので、次年度使用額を用いて試料合成のための試薬を大量に購入する。また請求している助成金については従来の予定通りに磁気PDF解析候補物質の合成や物性測定用に必要な消耗品、学会発表等の旅費に使用する。
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Research Products
(3 results)