2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K05055
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
斉藤 義久 立教大学, 理学部, 教授 (20294522)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子包絡環 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,前年度に引き続きトロイダル・リー代数,および量子トロイダル代数の構造論に関する研究を行った. 量子トロイダル代数は,近年理論物理学,特に素粒子論との関連から注目されている代数であるが ,半単純Lie代数やKac-Moody Lie代数の場合に用いられた既存の方法論がほとんど役に立たないため,これまで組織的な研究はほとんど行われていなかった.報告者はこの点に着目し,量子トロイダル代数の構造論をルート系の 立場から組織的に研究した.得られた成果は次の通りである. 楕円ルート系に付随するブレイド群の幾何学的構成:前年度に行った一般のルート系に対する量子トロイダル代数の構成,および量子トロイダル代数へのブレイド群,モジュラー群の作用の構成を引き継ぐ形で行った研究である.前年度の研究で現れたブレイド群は,正確には楕円ルート系に付随するブレイド群であるが,これは既存のケース(Kac-Moodyリー代数の場合)のアナロジーとして,純代数的に定義されるものであった.他方,今年度はこのブレイド群が,楕円ルート系に付随して現れる『楕円正則軌道空間』の基本群として再構成できることを証明した.同様の結果は,半単純リー代数の場合にはよく知られており,本研究成果はその楕円アナロジーと見る事が出来る.同時に,モジュラー群の作用に関しても,保型形式の理論を応用する事で,幾何学的な構成が得られた.モジュラー群の作用はKac-Moody代数には無かったトロイダル特有の現象であり,この群作用を幾何学的に構成できたことは,今後の理論の進展において重要な役割を果たすと考えている. 以上の研究成果については現在論文を執筆中である.今年度中の公表には間に合わなかったが,間も無く学術雑誌に投稿の予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子トロイダル代数に関する研究は,当初の研究計画においては研究の後半に可積分系への応用に関連して扱う予定であったが,計画の開始当初に予想外の研究の進展があり,本年度も引き続き量子トロイダル代数の基礎理論に関する研究を行うことにした. 本年度に得られた成果は,量子トロイダル代数の構造を記述する上でその基本データとなる楕円ルート系の幾何学的性質,特にトポロジカルな性質(付随する基本群の性質)に関する話題である.トロイダル代数に付随する可積分系を考えようとする場合,こうしたデータは対応する微分方程式を理解する上で大いに役立つことが期待される.したがって,この点だけに着目するならば『当初の計画以上に進展している』と言って良いものと考える.これらは,当初の研究計画の中にも織り込み済みの話題であり,当初案から逸脱しているとは考えていない. 他方,代数群や多元環への応用に関しては,いささか手薄になってしまった面は否めず,十分な成果が得られたとは言い難い状況である.とはいえ,本研究課題は4年間という期間をトータルして行うものであるので,多少の順序の変更はあっても良いものと考えている.その意味で,本研究課題は『おおむね順調に進展している』と判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
テーマ毎に分けて述べる. (1) 量子トロイダル代数の基礎理論の構築と可積分系への応用: 1年目,および2年目の研究で量子トロイダル代数の構造に関する理解を深め,3年目では構造を記述する楕円ルート系の幾何学的性質を調べた.1年目,2年目に得られた代数的成果をより深く理解する上で,3年目の成果である『楕円正則軌道空間の基本群の決定』は非常に重要であると考えている.さらに,楕円ルート系に付随する可積分系を理解する上でも,3年目である本年度の成果は重要な役割を果たすことになるだろう.今後は,研究計画案に基づき,これらの成果の可積分系の研究に応用していく予定である. (2) 代数群・多元環の表現論と結晶基底の理論との関係の研究: 本来主要な研究テーマとして扱う話題であったが,上述の量子トロイダル代数に関する研究に予想外の進展があったため,あまり取り組むことが出来なかった.当初の研究計画に基づき,主に計算機を用いたデータ収集から研究を行っていく予定である.
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Causes of Carryover |
当該年度中に予算を使い切ることも可能ではあったが,(1) 次年度が最終年度であり成果の発表のために多くの国内旅費が必要になること, (2) 本研究課題で得られた成果を国際学会で発表するために,すでに複数回の海外渡航(5月にフランス・ブルゴーニュ大学,11月にドイツ・ケルン大学)を予定しており,そのための資金が必要になること,の2点を鑑み,次年度に繰り越した方が有効な活用法であると考えた. また,余った額は10万円以下の比較的軽微なものであり,申請時の研究計画から大幅に異なるものではないと考えている.
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