2016 Fiscal Year Research-status Report
実双曲空間上の実解析的保型形式のリフティングによる多様な構成と多方面分野への応用
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16K05065
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
成田 宏秋 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (70433315)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 階数1の直交群 / 実双曲空間 / リフティング / Maassの逆定理 / 保型表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度の計画では当初、複素上半平面上のMaassカスプ形式からのリフティングにより、階数1の直交群上のMaassカスプ形式の例を低い次数の場合で例を作る計画であった。これは一般次数の場合の構成への一つの足掛かりを与える目的であった。しかしこの年度は一般次数の場合での当初の想定を超える進展が認められた。なおこの保型形式は実双曲空間上の保型形式の概念と同等であることを注意しておく。 具体的な成果としては、レベル1の複素上半平面上のMaassカスプ形式からのリフティングにより、任意次数(8の倍数ならすべて)の偶ユニモジュラー格子に付随して定義される階数1の直交群上の実解析的カスプ形式を構成した。そしてこのリフティングはHecke同時固有形式をHecke同時固有形式に移すもので、そのHecke固有値は持ち上げられるMaass形式のHecke固有値の観点から明示的にかつ簡明に記述できることが分かった。そしてこの実解析的カスプ形式が生成するカスプ保型表現についても具体的な記述を得ることができ、すべての有限素点で非緩増加で無限素点で緩増加であることを示した。この結果はRamanujan予想の反例を高い次数の場合でしかも非正則保型形式で与えた最初の例と思われる。 証明のポイントは2つある。一つはMaassの逆定理をアデール化することである。逆定理の適用には階数1の直交群の数論的部分群の生成元を明示的に与える必要があり、これは難しいと思われるが、このアイデアによりそれを回避できる。もう一つは金沢大学の菅野孝史氏がいわゆる「OdaリフトのJacobi形式による定式化」で与えた非archimedes局所理論を使うことである。上記のHecke固有値の「簡明な公式」は、この菅野氏の理論と表現論的視点を有機的に組み合わせて得られた結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は保型形式のリフティングによる具体的構成のみならず多方面分野への応用を視野に入れたものであるが、一般次数の場合で結果が得られたことは当初の想定を上回る重要な進展と言える。これにより低次元の直交群(ないしは実双曲空間)の場合のみならず高次元の場合も視野に入れた研究の可能性が見込めると考えている。実際菅野氏の理論やアデール化された逆定理は、偶ユニモジュラー格子に限らず一般の極大格子の場合で適用可能である。このリフティングによる具体的構成を軸とした研究を高次元の場合にも推進することで、より高いレベルで多方面分野への応用等を意識した研究ができると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度与えた階数1の直交群上のMaassカスプ形式の構成を受けて、更に様々な構成を試みる方向性があろう。例えば偶ユニモジュラー格子に限定せず一般の極大格子に付随して定まる階数1の直交群の場合でリフティングによる構成を考える研究があろう。それから今年度からはテータリフトによる構成も考えたいと思っている。これまで扱ったMaassの逆定理を用いたリフティングによる構成方法は無限素点で「連続系列表現」を生成する保型形式に適用可能であるが、Maassカスプ形式限定で詳細な数論的研究を推進するのは現代の技術では限界があると思われる。しかしこのテータリフトによる方法は複素上半平面上の楕円カスプ形式からのリフトを考えることも可能にする。この楕円カスプ形式のフーリエ係数は整数論以外の多方面分野への関連からもその意義が認識されており、テータリフトを使った方法も導入し研究の幅を広げることは本研究の目的にかなったものと言える。またこのたび得られた高い次数の直交群上のカスプ形式をテータリフトすると、高い次数の非正則ジーゲル保型形式の構成が期待され、これも興味深い研究テーマの一つになるであろうと考えている。
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Research Products
(3 results)