2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05071
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
谷口 健二 青山学院大学, 理工学部, 教授 (20306492)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 標準 Whittaker (g,K)-加群 / 主系列表現の組成列 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,実簡約型 Lie 群の標準 Whittaker (g,K)-加群の構造を解析することを主目的としている. 平成29年度には,前年度に引き続き,この加群の代数的な性質から得られる構造定理について研究を行った. Whittaker 模型の理論における重要な定理として,「(g,K)-加群 V に対し,その双対Whittakerベクトルの空間 Wh*(V) を取る操作は完全関手である」というものがある.無限小指標 Λ を固定したとき,この定理は「本研究の対象となっている標準 Whittaker (g,K)-加群は,無限小指標 Λ をもつ Harish-Chandra (g,K)-加群の圏における入射加群である」と言い換えられる.代数の一般論により,入射加群は既約部分加群の入射包絡の直和に分解する.この事実から標準 Whittaker (g,K)-加群の構造について多くの情報が得られることが研究の過程で判明した. この事実の応用の一つとして,前年度には,群 G が split 群で Λ が regular のとき,Λ と同じ Weyl chamber に含まれる無限小指標 Λ' への translation 関手による標準 Whittaker (g,K)-加群の像は,無限小指標 Λ' の標準 Whittaker (g,K)-加群に同型であることを示した. 二つ目の応用として,G が split 群のとき,標準 Whittaker (g,K)-加群の大域指標,即ち既約組成因子の情報,は,無限小指標 Λ を持つ主系列表現の大域指標の和であることを,平成29年度に示した.これにより,標準 Whittaker (g,K)-加群の組成因子問題が,split 群に関しては解決したことになる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,まずは具体例を多く構成した上で,平成29年度には階数2への還元を行う予定であった.しかし「研究実績の概要」の項にも記したように,Whittaker 加群の入射性という,強力な手法を発見したため,平成28年度の後半から,当面はこれを用いた代数的な考察を行うことに研究の中心を切り替えた.これにより split 群の場合については,標準 Whittaker (g,K)-加群の translation 関手による振る舞いや,大域指標の決定という大きな進展を得た.その結果,split 群の場合については,自己双対性予想に関するものを除けば,当初の研究目標の達成に近づいている.また,split 群に限らず,確定特異点型偏微分方程式系の境界値問題を適用することで本研究が進展する,という当初の研究計画を具体化する方針も見えてきただけでなく,この方針は妥当との感触も得ている. 以上を踏まえて総合的に判断すると,本研究は概ね順調に進展していると結論づけられる.
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Strategy for Future Research Activity |
群が split な場合,標準 Whittaker (g,K)-加群には自己双対的な構造があるとの予想を肯定的に解決することが,本研究の主目的,つまり標準 Whittaker (g,K)-加群の構造決定に大きな役割を果たす.これを解決するためには,無限小指標 Λ を持つ標準 Whittaker (g,K)-加群と,無限小指標 -Λ を持つそれとの非退化な (g,K)-不変双一次形式を構成すればよい.これについてはまだ完全な形で構成できていないので,それを今後の研究の第一の主眼とする.そのためには,Whittaker 関数の境界値を考え,境界値が含まれる主系列表現の間の非退化 (g,K)-不変双一次形式を使うのがよいと考えている. 群が split ではない場合はより複雑であることが実階数1の具体例からわかっている.このときは Λ が generic なものから解析接続で得られる Whittaker 関数は必ずしも無限小指標を持たず,一般化無限小指標を持つ.そのため,一般化無限小指標について何らかの制約を付けて標準 Whittaker (g,K)-加群を拡張すれば,split なときと同様の自己双対的構造を持つのではないかと予想している.このように拡張した加群を経由して split でない場合の解析ができないか,方針を探ることも今後の研究の主題の一つとする.
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