2017 Fiscal Year Research-status Report
セミステイブルな対数的スムース退化上の混合ホッジ構造の研究
Project/Area Number |
16K05107
|
Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
藤澤 太郎 東京電機大学, 工学部, 教授 (60280385)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 混合ホッジ構造 / 対数構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンパクトかつ適切なケーラー条件をみたすセミステイブルな対数的スムース退化 X ---> * について、その相対対数的ドラーム複体と擬同型なコホモロジカル混合ホッジ複体(A,L,F)が、本研究の最も重要な研究対象である。 平成29年度当初は、平成28年度に得られた等式L=W(N)の証明のミスを再検討する過程で、L=W(N)のヴァリアントである等式L(I)=W(N_I)を証明することに成功した。ここでは、El Zein のフィルター付き混合ホッジ複体の理論を巧妙に適用して、ウェイト・スペクトル系列のE_2退化を示すことが証明の鍵である。これにレフシェッツ加群の議論を組合せることにより、L(I)=W(N_I)を得る。 次に相対対数的ドラームコホモロジー群上の偏極について研究を進めた。単体的な対象(K,W,F)およびその上の積・トレース射を構成し、さらにAとKを結び付る擬同型A ---> Kを用いて(A,L,F)が定めるコホモロジー群上の偏極を得るという当初の方針は、計算が極めて複雑で実行不可能であることが判明した。そこで、(A,L,F)上に直接偏極を定義することを試み、現在この新しい方針について、ほぼ見通しを立てることに成功した。ここでは、(K,W,F)を単体的な対数的ド・ラーム複体(Omega, W, F)におきかえることが鍵となる。この(Omega, W, F)上では、積やトレース射の計算は簡略化され、また射A ---> Omegaの構成もより簡明になる。(K,W,F)とは異なり、射A ---> Omega は擬同型にはなり得ないが、(A,L,F)から得られる混合ホッジ構造に偏極を定めるだけの十分に良い性質を持っていることが判明しつつある。現在、細部の議論を詳細に検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度当初、平成28年度に得られていた等式L=W(N)の証明において、多重レフシェッツ加群に関する議論の中にミスを発見し、再考を余儀なくされた。しかし、従来のレフシェッツ加群の議論を詳細に再検討することによりL=W(N)を正しく証明することに成功した。この再証明に時間を要したため、平成29年度中には相対対数的ドラームコホモロジー群上の偏極の構成まで終えるという当初の計画よりも遅れ、現在は偏極の構成の途中段階に留まっている。 しかしながら、上述の再証明の過程でL=W(N)のヴァリアントであるL(I)=W(N_I)が証明できたことは、大変重要な成果である。この結果によって、相対対数的ドラームコホモロジー群上のフィルトレーションの族L(I)に関して、より詳細かつ深い理解が得られたことは特筆すべき成果であると考える。 さらに、この再証明の過程で多重レフシェッツ加群の理論に当初予期していた以上の困難があることが判明したが、研究対象としてより一層興味深いものであることも明らかになった。現在、この方向の研究は休止状態であるが、折をみて再開して行くつもりである。 一方、当初予定していた、偏極の構成についてであるが、「研究実績の概要」にも記したように、手法に関して多少の方針変更が生じたものの、早期に新しい方法を見出したことにより、偏極の構成という所期の目的を達成できることが十二分に期待される状況まで進展した。現在、細部にわたって議論の詰めを行なっているところであるが、見通しは明るいものと考えている。 この様に、当初の予定からは多少遅れているものの、予期していなかった重要な成果を得たこと等を総合し、研究は概ね順調に進んでいるものと認識している。
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」にも記した様に、予期していなかった重要な成果を得ることに成功した反面、当初の計画からは多少の遅れが生じている。今年度が最終年度であることにも鑑み、できる限り研究のスピードアップを図り、当初の目標を達成することを目指したい。 射影的なセミステイブル対数的スムース退化の相対対数的ドラームコホモロジー群上に、混合ホッジ構造としての自然な偏極を構成することを、平成30年度の最初の目標とする。上述したように、当初想定していた手法での実行が困難であることが判明したが、平成29年度中に新しい方法を見出し、既にその方針でかなり見通しが得られた状況にある。平成30年度はこの方針を継続し、さらに細部まで詳細に検討を加えることにより偏極の構成を完成させたい。さらに平成29年度に得られた等式L(I)=W(N_I)とも関連して、この偏極とフィルトレーションL(I)との関係について考察することも興味ある研究課題である。これは、(A,L,F)から定まるウェイト・スペクトル系列のE_1項が持つ自然な多重レフシェッツ加群の構造が、E_2項に降下するかどうか、という問題だと解釈できる。多重レフシェッツ加群の理論が予想以上に難しいものであることが、平成29年度の本研究の過程で判明したが、平成29年度に行った思考過程をより詳細に検討し直すことから新しい突破口を見出したいと考えている。 多重レフシェッツ加群の理論を構築することは、当初の研究目標の一つである「局所不変サイクル定理」の一般化にも重要な手掛りを与えるものと考えている。さらに、等式L=W(N)あるいはそのヴァリアントであるL(I)=W(N_I)および自然な偏極という、本研究で得られた(得られると期待される)研究成果を総合し、「局所不変サイクル定理」の一般化という次の研究目標に挑む予定である。
|
Causes of Carryover |
平成29年度当初、平成28年度の研究成果であった、等式L=W(N)の証明に不備を発見したため、その証明の再検討を余儀なくされた。その過程で、等式L=W(N)のみならずL(I)=W(N_I)というヴァリアントが証明できたことは予期せぬ成果であったが、結果的に論文執筆にも遅れが生じ、また研究成果を発表する機会を持つことも難しかった。また、研究成果がより幅広いものとなったことで、論文の構想の練り直し等の時間も必要となり、当初の予定に比して、執筆作業も進まなかった。そのため、現在も論文執筆作業を継続中である。これらの理由により、研究出張、あるいは研究図書の購入や資料の収集・整理といった費用を想定程必要とせず、結果的に次年度使用額が生じた。
上に記したように、現在改めて論文執筆作業を進めており、可能な限り早く完成・投稿した上で、時間の許す限り国内外の研究集会等に積極的に参加し、成果を発表する機会を持てればと考えている。また、平成30年度の研究課題の一つである多重レフシェッツ加群の理論の構築のためには、リー群やリー環に関する知見等より幅広く文献にあたり、情報収集に努める必要がある。平成29年度に生じた次年度使用額は、平成30年度請求分と合せ、研究集会参加のための旅費、あるいは文献複写・資料購入のための物品費、さらには情報交換のための謝金として支出する予定である。
|