2017 Fiscal Year Research-status Report
最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開
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16K05139
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
濱田 龍義 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (90299537)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | 部分多様体 / 代数統計学 / 計算機代数 / 数式処理 / オープンソースソフトウェア / MathLibre |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は,計算代数統計学において開発された手法に注目し,微分幾何学的な視点から再検討を行うことを出発点としている.ホロノミック勾配降下法は,微分作用素環のグレブナー基底の理論,微分方程式の数値解法,統計的推定理論などを全て用いて統計的モデルの解析を行う方法である.ホロノミック勾配降下法について,専門家から情報収集を行いつつ,アフィン幾何学的な視点から再検討を行っている.また,これまでの概接触構造を持つ部分多様体の研究経験を活かし,複素構造が導入された統計多様体の部分多様体についても考察を進めている. 特に統計多様体については,北海道大学で行われたミニワークショップ「統計多様体の幾何学とその周辺」に参加し,統計多様体や,情報幾何学の専門家と有益な情報交換を重ねることができた.また,当該年度に深層学習ライブラリ検証用に計算機システムを購入し検討を重ねている.2018年1月18日に京都大学数理解析研究所で開催された研究集会「数理農学の基盤づくりに向けて」において,生物資源科学系における機械学習を題材とする教育についての講演を行った.2018年3月17日に「数学ソフトウェアとフリードキュメント/26」を東京大学で開催し,最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開について議論を行った.「数学ソフトウェアとフリードキュメント」については,様々な分野の研究者が集い交流を行う貴重な機会となっている.2018年3月には,幾何学,トポロジー,計算機代数,代数統計等の複数の専門家の協力を得て,数学に関連するオープンソースソフトウェアを収集したコンピュータ環境MathLibre 2018を開発,公開を行った.また,動的数学ソフトウェア GeoGebra に関する招待講演を複数の大学で行い,統計数理研究所において共同研究集会を開催し,研究成果を共同研究リポートにまとめて出版した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数学ソフトウェアプロジェクト MathLibre を継続して公開できたことは,大変有意義なことだと感じている.計算機環境が日々変化していく中で,特に配布方法については再検討が必要であるが,一方で,数学ソフトウェアのアーカイブとしての役割は十分に果たしていると確信している.安定した開発環境の構築については完成しつつあるが,バグトラッキングシステムの運用やドキュメントの充実については対応できているとは言い難いので,今後の研究推進のためにも,注力が必要である. 最新の計算代数アルゴリズムについて,基礎的な部分から見直している.これは,本研究を進める上でも重要な役割を占めている.汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進めてきた.研究協力者が中心となって,JavaScript上での計算機代数システムおよび可視化システムの構築を続けている.JavaScriptによる実装は,速度面のデメリットは否めないが,それを上回るメリットも多数存在する.一般的なWebブラウザは,JavaScriptの実行系を備えているため,PCからスマートフォンにいたるまで計算機環境を問わずに実行可能である.すでにグレブナー基底の計算についても試験的な実装が終わり,代数統計学における研究成果の可視化につなげることを検討している. 動的数学ソフトウェアGeoGebraに関しては,ようやく専門家にも認知されつつあり,昨年度は広島大学,大阪大学,城西大学に於いて招待講演を行った.元々,GeoGebraは数学教育のツールとして開発されたソフトウェアであるが,研究支援ツールとしての活用についても,引き続き検討中である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者によるJavaScript上での計算機代数システムおよび可視化システムの構築については,ある程度の目処が立ってきた.今後は,この計算機代数システムのリファクタリング,すなわち見直しと簡略化に着手する予定である.今年度内にはシステムの見直しをしながら,「数学とコンピュータ」シリーズの1冊として出版を目指す.書籍の対象読者は,数式処理アルゴリズムに興味を持つ様々な分野の専門家を対象としており,アルゴリズムを学びながら,既存の数値計算ライブラリを活用しつつ,一から実装して理解を促すことを目指す予定である.一般的なWebブラウザは,JavaScriptの実行系を備えているため,PCからスマートフォンにいたるまで計算機環境を問わずに実行可能である.すでにグレブナー基底の計算についても実装が進みつつあるため,代数統計学における研究成果の可視化につながり,研究成果の共有という意味でも,今後の研究推進方策の一つとして重要な位置を占めている. 引き続き,生物資源科学系における代数統計学の応用も視野に入れることを検討している.今後も,数理農学や機械学習の研究集会への参加を通じて,情報交換を行っていく予定である.生物系における数学の研究は,すでに様々なアプローチが始められており注目を浴びている分野であるが,一方で,その応用分野の一つである生物資源科学においては,まだ途上段階と思われる.代数統計学の威力を発揮する研究分野として大いに期待できるし,また,幾何学的な観点,代数的な観点が新たな研究の視点を生み出す可能性を秘めていると感じている.また,国際会議における数学ソフトウェア研究の紹介は,当初から研究計画に含まれているが,今年度は国際数学者会議における展示ブースの出展を予定している.
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Causes of Carryover |
当初,計画していた国際会議への出席に関して,スケジュールの調整がつかず見送ったため,次年度使用額として169,278円が生じた. 2018年8月1日から9日にかけて,ブラジルのリオデジャネイロで開催される国際会議ICM2018に参加を予定しており,渡航滞在費の一部として利用する予定である.
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