2018 Fiscal Year Research-status Report
最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開
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16K05139
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
濱田 龍義 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (90299537)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | 部分多様体 / 代数統計学 / 計算機代数 / 数式処理 / オープンソースソフトウェア / MathLibre |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は,計算代数統計学において開発された手法に注目し,微分幾何学的な視点から再検討を行うことを出発点としている.ホロノミック勾配降下法は,微分作用素環のグレブナー基底の理論,微分方程式の数値解法,統計的推定理論などを全て用いて統計的モデルの解析を行う方法である.ホロノミック勾配降下法について,専門家から情報収集を行いつつ,アフィン幾何学的な視点から再検討を行っている.また,これまでの概接触構造を持つ部分多様体の研究経験を活かし,複素構造が導入された統計多様体の部分多様体についても考察を進めている. 特に統計多様体については,北海道大学で行われたミニワークショップ「統計多様体の幾何学とその周辺」に参加し,統計多様体や,情報幾何学の専門家と有益な情報交換を重ねることができた.また,当該年度に深層学習ライブラリ検証用に計算機システムを購入し検討を重ねている.2018年8月28日に「数学ソフトウェアとその効果的教育利用に関する研究」において,講演「ニューラルネットワーク作成による数学学習の動機付け」を行った.2019年3月16日に「数学ソフトウェアとフリードキュメント/28」を東京工業大学で開催し,最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開について議論を行った.「数学ソフトウェアとフリードキュメント」については,様々な分野の研究者が集い交流を行う貴重な機会となっている.2019年3月には,幾何学,トポロジー,計算機代数,代数統計等の複数の専門家の協力を得て,数学に関連するオープンソースソフトウェアを収集したコンピュータ環境MathLibre 2019を開発,公開を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
数学ソフトウェアプロジェクト MathLibre を継続して公開できたことは,大変有意義なことだと感じている.幾何学を対象とするソフトウェアの中には特定の計算機環境に依存するものもあり,研究者の間でも一定の需要がある.数学ソフトウェアのアーカイブとしての役割が,その需要に答えていると考えている.安定した開発環境の構築については完成しつつあるが,以前から抱えている問題として,バグトラッキングシステムの運用やドキュメントの充実については,明らかに遅れが出ており,対応できているとは言い難い.今後の研究推進のためにも注力が必要である. 最新の計算代数アルゴリズムについて,基礎的な部分から見直している.これは,本研究を進める上でも重要な役割を占めている.これまで,汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進めてきた.研究協力者が中心となってJavaScript上での計算機代数システムおよび可視化システムの構築を続けている.JavaScriptによる実装は,速度面のデメリットは否めないが,それを上回るメリットも多数存在する.一般的なWebブラウザは,JavaScriptの実行系を備えているため,PCからスマートフォンにいたるまで計算機環境を問わずに実行可能である.すでにグレブナー基底の計算についても試験的な実装が終わり,代数統計学における研究成果の可視化につなげることを検討している.動的数学ソフトウェアGeoGebraに関しては,ようやく専門家にも認知されつつあり,現在,書籍化に向けて検討を進めている段階である.代数統計学や深層学習における基礎的な概念を可視化する上でも重要なプロジェクトと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
バグトラッキングシステムとドキュメントの充実は早急に対処すべき部分である.合わせて汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発についても研究を進める予定である.現在,JavaScript上の計算機代数システムの構築については研究協力者が引き続き進めているが,新たに,組版システム LaTeX 上の計算機代数システムの応用についても検討を重ねている.次世代の TeX 実装 LuaTeX は LaTeX 文書の中にプログラミング言語 Lua を埋め込むことができる.Lua上で開発された計算機代数システムも幾つか存在するが,LuaTeX と計算機代数システムの組み合わせについては,いまのところ事例がほとんど知られていない.似た実装としては,汎用計算機代数システム Sage のスクリプトを TeX に透過的に埋め込むことができる SageTeX が開発されていたが,現在は開発が停滞しているようである.JavaScript 上の計算機代数システムが Web 上でのインターフェースとすれば,LaTeX 上の計算機代数システムは印刷物上のインターフェースと呼んで良い.印刷物をインターフェースとする計算機代数システムは,高速なスキャナを介してコンピュータビジョンの研究成果と合わせることで,新たな問題意識を研究分野にもたらすのではないかと考えている. また,生物資源科学系における代数統計学の応用についても,引き続き検討している.生物資源科学と一口に言っても,その研究対象は幅広い.人工知能に続き,人工生命の研究もまた注目を浴びつつある分野であるが,代数統計学の威力を発揮する研究分野として大いに期待できるし,また,幾何学的な観点,代数的な観点が新たな研究の視点を生み出す可能性を秘めていると感じている.
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Causes of Carryover |
当初は,ブラジルのリオデジャネイロで開催される国際数学者会議 ICM2018 への参加を予定していた.研究成果の発表を目的として,リオデジャネイロへの旅費,および2週間に及ぶ滞在を予定して予算を作成していた.しかし,先方の開催側との連絡,および調整がうまくいかず,参加を断念した.そこで,当初は予定していなかったが,オーストリア,ウィーンで開催された離散幾何学に関する研究会への参加費用として活用した.滞在期間は短いものであったが,研究上,大変有益な情報を得ることができた.しかし,旅費と滞在期間が当初の予定とは異なるため,次年度使用額が生じた. 翌年度分として請求する助成金と合わせた予算については,関連分野に関する国際研究集会が欧州で開催予定であるので,参加,渡航費用として使用計画を検討する予定である.代数統計学,および計算機代数に関連した出版物についても,引き続き必要である.また,昨年度においてプレゼンテーション用のコンピュータが故障しており,その代替機,および可能であれば予備機が必要である.プレゼンテーション用のコンピュータ購入の予算として有効に活用する予定である.
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