2019 Fiscal Year Research-status Report
最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開
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16K05139
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
濱田 龍義 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (90299537)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | 部分多様体 / 代数統計学 / 計算機代数 / 数式処理 / オープンソースソフトウェア / MathLIbre |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は,計算代数統計学において開発された手法に注目し,微分幾何学的な視点から再検討を行うことを出発点としている.ホロノミック勾配降下法は,微分作用素環のグレブナー基底の理論,微分方程式の数値解法,統計的推定理論などを全て用いて統計的モデルの解析を行う方法である.ホロノミック勾配降下法について,専門家から情報収集を行いつつ,アフィン幾何学的な視点から再検討を行っている.また,これまでの概接触構造を持つ部分多様体の研究経験を活かし,複素構造が導入された統計多様体の部分多様体についても考察を進めている. 特に統計多様体については,北海道大学で行われたミニワークショップ「統計多様体の幾何学とその周辺」に参加し,統計多様体や,情報幾何学の専門家と有益な情報交換を重ねることができた.2019年5月31日に立教大学で開催された日本数式処理学会第28回大会において,研究協力者である中川義行氏と共同研究中のマークシート選択式問題における数式処理の活用についての発表を行った.2019年9月16日に「数学ソフトウェアとフリードキュメント/29」を石川県政記念しいのき迎賓館で開催し,最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開について議論を行った. 「数学ソフトウェアとフリードキュメント」については,様々な分野の研究者が集い交流を行う貴重な機会となっている.2020年3月には,幾何学,トポロジー,計算機代数,代数統計等の複数の専門家の協力を得て,数学に関連するオープンソースソフトウェアを収集したコンピュータ環境MathLibre 2020を開発,公開を行った. また,動的数学ソフトウェア GeoGebraに関する講演を複数の大学で行い,統計数理研究所において共同研究集会を開催し,研究成果を共同研究リポートにまとめて出版した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数学ソフトウェアプロジェクトMathLibreの開発を継続できたことは,大変有意義なことだと感じている.幾何学を対象とするソフトウェアの中には特定の計算機環境に依存するものもあり,研究者の間でも一定の需要がある.数学ソフトウェアのアーカイブとしての役割が,その需要に答えていると考えている. これまで,汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進めてきた.研究協力者が中心となってJavaScript上での計算機代数システムおよび可視化システムの構築を続けている.JavaScriptによる実装は,速度面のデメリットは否めないが,それを上回るメリットも多数存在する.一般的なWebブラウザはJavaScriptの実行系を備えているため,PCからスマートフォンにいたるまで計算機環境を問わずに実行可能である.すでにグレブナー基底の計算についても試験的な実装が終わり,代数統計学における研究成果の可視化につなげることを検討している.これまで蓄積してきた計算機代数,数式処理の知見の応用先として,汎用的な設問作成アルゴリズムの構築にも取り組んでいる.教育への応用は,これまでも試行してきたが,新たにマークシート設問の自動生成に取り組んでいる.動的数学ソフトウェアGeoGebraに関しては,ようやく専門家にも認知されつつあり,現在,書籍化に向けて検討を進めている段階である.代数統計学や深層学習における基礎的な概念を可視化する上でも重要なプロジェクトと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進める予定である.現在,JavaScript上の計算機代数システムの構築については研究協力者が引き続き進めているが,新たに組版システムLaTeX上の計算機代数システムの応用についても検討を開始できた.次世代のTeX実装LuaTeXはLaTeX文書の中にプログラミング言語Luaを手軽に埋め込むことができる.Lua上で開発された計算機代数システムも幾つか存在するが,LuaTeXと計算機代数システムの組み合わせについては,いまのところ事例がほとんど知られていない.類似の実装としては,汎用計算機代数システムSageのスクリプトをTeXに透過的に埋め込むことができるSageTeXが開発されていたが,現在は開発が停滞しているようである.JavaScript上の計算機代数システムがWeb上でのインターフェースとすれば,LaTeX上の計算機代数システムは印刷物上のインターフェースと呼んで良い.印刷物をインターフェースとする計算機代数システムは,高速なスキャナを介してコンピュータビジョンの研究成果と合わせることで,新たな問題意識を研究分野にもたらすのではないかと考えている. また,生物資源科学系における代数統計学の応用についても,引き続き検討している.生物資源科学と一口に言っても,その研究対象は幅広い.人工知能に続き,人工生命の研究もまた注目を浴びつつある分野であるが,代数統計学の威力を発揮する研究分野として大いに期待できるし,また,幾何学的な観点,代数的な観点が新たな研究の視点を生み出す可能性を秘めていると感じている.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響もあり,2月中旬に予定していた韓国高等科学院への海外出張,3月始めに名城大学で予定していた幾何学研究集会,大阪市立大学で開催予定であった国際会議,3月末に金沢大学で予定されていたRisa/Asir Conferenceへの国内出張などを見送ったため,次年度使用額が生じた.次年度の7月にドイツのブラウンシュヴァイク大学で予定されていた数学ソフトウェアに関する国際会議で講演を予定していたが,新型コロナウィルス感染症の影響からオンライン講義で行われることが決定し,海外出張についても難しい状況である.次年度については,主に研究上必要な書籍と計算機等の環境の充実に充てる予定である.
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