2020 Fiscal Year Research-status Report
最近の計算代数統計学の進展に対する微分幾何学的展開
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16K05139
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
濱田 龍義 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90299537)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2022-03-31
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Keywords | 部分多様体 / 代数統計学 / 計算機代数 / 数式処理 / オープンソースソフトウェア / MathLibre |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は,計算代数統計学において開発された手法に注目し,微分幾何学的な視点から再検討を行うことを出発点としている.ホロノミック勾配降下法は,微分作用素環のグレブナー基底の理論,微分方程式の数値解法,統計的推定理論などを全て用いて統計的モデルの解析を行う方法である.ホロノミック勾配降下法について,専門家から情報収集を行いつつ,アフィン幾何学的な視点から再検討を行っている.また,本研究では計算代数の応用面にも興味を持って進めている.
本年度は新型コロナウィルス感染症の影響を受けて研究会の実施,参加もオンラインに限られた.2020年7月13日から16日にドイツで開催されたICMS2020にオンライン参加し,中川義行氏,田村誠氏と共同研究を行っている計算代数システムを応用した多岐選択式問題の自動作成について研究成果の報告を行うことが出来た.
また,2020年9月21日に「数学ソフトウェアとフリードキュメント/31」,2021年3月14日に「数学ソフトウェアとフリードキュメント/32」をオンライン開催し,3次元多様体の(非)双曲性の計算機による判定法,統計幾何学に関するオンライン教育,形態形成の数理的研究,オンライン講義に最適化された動画収録システムなどについて情報交換を行った.このワークショップは様々な分野の研究者が集い交流を行う貴重な機会となっている.2021年3月21日よりオンライン開催された第27回大阪市立大学国際学術シンポジウム「可視化の数理と,対称性およびモジュライの深化」において我々の研究プロジェクトであるMathLibreについて紹介を行うことが出来た.2021年4月現在,MathLibre 2021の公開が遅れている.今後のスケジュールにも左右されるが,近日中に公開の目処を立てたいと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
数学ソフトウェアプロジェクトMathLibreの開発は継続中であるが,公開時期については当初の予定よりかなり遅れている.幾何学を対象とするソフトウェアの中には特定の計算機環境に依存するものもあり,研究者の間でも一定の需要がある.数学ソフトウェアのアーカイブとしての役割が,その需要に答えていると考えている.これまで,汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進めてきた.研究協力者が中心となってJavaScript上での計算機代数システムおよび可視化システムの構築を続けている.JavaScriptによる実装は,速度面のデメリットは否めないが,それを上回るメリットも多数存在する.一般的なWebブラウザはJavaScriptの実行系を備えているため,PCからスマートフォンにいたるまで計算機環境を問わずに実行可能である.すでにグレブナー基底の計算についても試験的な実装が終わり,代数統計学における研究成果の可視化につなげることを検討している.これまで蓄積してきた計算機代数,数式処理の知見の応用先として,汎用的な設問作成アルゴリズムの構築にも取り組んでいる.教育への応用は,これまでも試行してきたが,新たにマークシート設問の自動生成に取り組み,国際会議で発表を行うことが出来た.動的数学ソフトウェアGeoGebraに関しては,ようやく専門家にも認知されつつあり,現在,書籍化に向けて検討を進めている段階である.GeoGebraのように非専門家でも手軽に利用できる数学ソフトウェアの存在は,代数統計学や深層学習における基礎的な概念を可視化する上でも重要なプロジェクトと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
汎用的な計算機環境における計算機代数システムの構築とインターフェースの開発について研究を進める予定である.現在,JavaScript上の計算機代数システムの構築については研究協力者が引き続き進めているが,新たに組版システムLaTeX上の計算機代数システムの応用についても検討を進めることができた.次世代のTeX実装LuaTeXはLaTeX文書の中にプログラミング言語Luaを手軽に埋め込むことができる.Lua上で開発された計算機代数システムも幾つか存在するが,LuaTeXと計算機代数システムの組み合わせについては,いまのところ事例がほとんど知られていない.類似の実装としては,汎用計算機代数システムSageのスクリプトをTeXに透過的に埋め込むことができるSageTeXが開発されていたが,現在は開発が停滞しているようである.JavaScript上の計算機代数システムがWeb上でのインターフェースとすれば,LaTeX上の計算機代数システムは印刷物上のインターフェースと呼んで良い.印刷物をインターフェースとする計算機代数システムは,高速なスキャナを介してコンピュータビジョンの研究成果と合わせることで,新たな問題意識を研究分野にもたらすのではないかと考えている. また,生物資源科学系における代数統計学の応用についても,引き続き検討している.生物資源科学と一口に言っても,その研究対象は幅広い.人工知能に続き,人工生命の研究もまた注目を浴びつつある分野であるが,代数統計学の威力を発揮する研究分野として大いに期待できるし,また,幾何学的な観点,代数的な観点が新たな研究の視点を生み出す可能性を秘めていると感じている.
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の影響によりオンラインで開催される研究集会を除いて一切参加することができなかった.また,本務校の研究室に出勤することも難しく,ほとんど全ての業務を出勤せずに行ってきたため,直接経費からの支出を行うことが難しかった. 2021年度についても研究集会については依然としてオンライン開催が主体となる見込みであるが,大学の研究室に出勤はできるようになった.今後の研究を進める上で必要な研究環境の整備,特に計算機環境と研究に必要な書籍,ソフトウェアの整備に支出する予定である.なお,オンライン開催でない研究集会については,移動の安全性について十分な考慮を行った上で,参加できるかどうかを検討する予定である.
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