2017 Fiscal Year Research-status Report
多重線形写像の実射影空間への像とテンソル階数への応用
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16K05151
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
角 俊雄 九州大学, 基幹教育院, 教授 (50258513)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テンソル / ランク / 典型ランク / 多重線形写像 |
Outline of Annual Research Achievements |
n-テンソルとは基礎体の元を成分とするn次元配列とみなせる。基底を変えると、別のn次元配列とみなすこともできる。n個の非零ベクトルから定まるテンソルをランク1という。一般に、テンソルのランクは、ランク1のテンソルの和としてあらわしたときの、それらのテンソルの数の最小数である。特に、2-テンソルは、行列であり、テンソルのランクは行列のランクと一致する。2-テンソルのランクは容易に計算できるが、3-テンソルのランクは一般の計算方法が知られておらず、正確に求めるのが難しい。 ランクについては、ボーダーランクや典型ランクなど種類が存在する。ボーダーランクはランクを下から抑え、典型ランクはサイズを固定したテンソル全体の集合について定まる数の集合で、確率が正で起こるランクの集合のことで、ランクよりは比較的に計算ができる場合がある。 ランク1のテンソルk個の和を表す多重線形写像を考察することにより、ボーダーランクや典型ランクの性質を考察している。テンソルとランクkのテンソル全体のなす集合との距離や、その距離を与えるテンソルを求める方法について考えている。テンソルのランクk近似は様々な分野で応用されているが、その根拠が和としてあらわせるランク1テンソルの固有性によると考えられているが、近似解の一意性など、数学的に正しいことを示そうとしている。さらに、基礎体を整数環とした場合や、正の実数に制限した場合に多重制限写像の定義域を制限すればよいので、その像の性質について継続して考察している。 計算機シミュレーション等で予想を立て、その根拠や証明方法について考察を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ランクrのテンソルの集合やランクr以下のテンソルの集合は半代数的集合であるため、複素テンソルに関しては、ザリスキ位相と相性が良いが、実テンソルに関してはザリスキ位相では不十分でユークリッド位相で考える必要がある。特に、ランクrをもつテンソルの集合は空でないユークリッド開集合を含むことがrが典型ランクであるための条件である。計算機実験により、数値近似実験で得られた知見を考察した。最大典型ランクについては、最大ランクを持つテンソルの集合が与える実射影空間の同変部分空間について考察を行った。また、最大ランクを持つと思われるテンソルに関して、実際に最大なのかを議論した。 ランク一定のテンソルのなす空間を実射影空間の部分空間として捉え,包括的な情報の抽出を試みたが、よい性質を見つけることができていない。その1つの要因は、行列がジョルダン標準形で共役作用で分類できるのに対し、3-テンソルに関してはそのような分類が存在しないためである。それを回避するため、3-テンソルを3枚の行列の集まりとみて、その2つの組が与えるペンシルのランクを最大になるような場合を考え、3-テンソルのランクをできるだけ大きくすることを考えた。数字実験と合わせて最大ランクとなるだろうと思われるテンソルを構成した。しかし、ペンシルのランク1テンソルの和での表示が一意的でないことや、ランクより多くの個数のランク1テンソルの和として表す方法の条件が見つかっていないため、一般的な性質は得られていない。これは課題として残った。 整数環上でのテンソルのランクについては、ペンシルについても、実数体上ではクロネッカーの自然な標準形があるためランクは既知であるにも係わらず、何も知られていない。整数環上でのテンソルのランクは、実数体上でのランクより十分大きくなると思われるが、どの程度大きくすればよいのか上からの評価を考察し、ある予想を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
近年活発に行われている割線複素多様体の研究をランクrの実テンソルのなす空間への研究へ応用する。像としてランクr以下のテンソルの集合を与える多重線形写像から誘導される実射影空間への写像を射影一般線型群の直積の群に関する同変写像としての考察を行い、ランクが求めやすいテンソルへの変形を試みる。また、セグレ多様体や割線実多様体に関する考察を進め、ランクr以下のテンソルの集合が与える実射影空間の同変部分空間の特徴を捉える。 最小典型ランクは、ランク1テンソルの和をあらわす多重線形写像の定義域と値域の次元から求められる。典型ランクによる最大ランクの上からの評価は、型が大きいと良い評価にはなっていないと思われる。典型ランクは型で決まるある数以上であることが、多重線形写像の像の次元からわかるが、その数はほとんどの場合典型ランクと一致することが知られている.しかし、一致しない無限列も知られており、いかなる場合に一致するのかその十分条件を求め、像の次元の様子を考察する。 3-実テンソルの典型ランクが知られているものはまだ少ないが、3つ含む例は知られていない。しかし、正テンソルの典型正ランクを考えると容易に3つ以上存在することがわかる。これは、境界が存在し、凸性であることが係わっている。複素テンソルの典型ランクはただ1つであることが知られているが、実テンソルに対し、最小典型ランクをもつテンソルとランク1のテンソルの和の極限として表せられるかを考察することにより、3つ含む例を構成できるかを考える。 研究の最終年度のため、成分を制限したテンソルを含め、昨年度までに考察した結果を総合的に考え、課題に取り組む。
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