2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05178
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
梶原 毅 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (50169447)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 自己相似写像 / C*-環 / K-群 / トレース / 次元群 / イデアル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度(2019年度)は、以下のように研究を進めた。 昨年度に引き続き、分点が有限個で連鎖しない場合場合のコアの行列表現の方法をさらに整備し、コアのK-群について、有限コアのK-群とモデルトレースのペアリングの一般的な計算方法を開発し、結果としてK_0群のわかりやすい記述を与えた。この方法によってテント写像に付随するC*-環のコアのK_0群が無限巡回群Z^{\infty}と同型であり、さらにK_0群への標準的な準同型のシフトとしての重複度が1であることなどを得た。さらにモデルトレースとK_0群の生成元についての関係を整備し、1次元区間力学系について、コアのK-群としてはテント写像の場合と同型で区別できなくても、次元群として考えると、標準準同型のシフトとしての重複度が区間力学系のピークの数になることで区別できることを示した。これらの結果は論文にまとめ Canadian Journal of Mathematicls に投稿ししたところ、ごく最近受理された。 さらに昨年度までに引き続き、分岐点集合が有限集合ではなく、また分岐点の連鎖が存在する場合に一般論をさらに発展させた。以前よりも大幅に一般的な条件のもとで行列表現の値域の直交分解を記述し、それを用いて離散モデルトレースの有限コアへの制限を記述している。これは離散トレースとK群のペアリングの計算に有用である。さらにこの手法を使うことで、より一般的な状況の元でコアのイデアルの分類を行い、離散トレースと原始イデアルがカーネルを取る操作で対応していることを示している。これらの結果は現在論文にまとめており、今後論文として投稿する予定である。 上記の結果は2019年の日本数学会秋季総合分科会で発表、および2020年の日本数学会年会で発表成立となっており、さらに研究を続けている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(理由) 理由は以下の通りである。 非可逆な力学系に付随した C*-環の主たる研究手段は、現在においてもグルポイドである。グルポイドを作る際には分岐点が存在するとエタールでなくなり、支障が生じる。一方記号力学系などで、次元群は多くの情報を含んでいることが以前から知られているが、分岐点が存在する場合には次元群を定義した論文は存在するが、分岐点を抜いて構成している。分岐点を取り込んだ構成はこれまで知られていない。本研究においては、C*-環の構成に分岐点を取り込んでいるだけではなく、コアのK-群の計算、および次元群の定義において分岐点を積極的に取り込んでおり、これまで計算した例においては、分岐点の数が標準準同型の形、即ちシフトの重複度を決めており、これは過去において見出されていない現象である。 以前刊行した研究では、分岐点が有限集合であること、また分岐点の連鎖が存在しないことの仮定が必要であったが、昨年度に引き続いて、分岐点が有限集合ではなく、また分岐点の連鎖が起こり得る場合に対しても理論を展開している。一般的な状況に対しては、すでに見通しのよい理論を構築しており、本研究を開始した時点よりも理論の定式化などがわかりやすくなってまた、以前の論文においてコアのイデアルの分類を行ったが、一般的な状況での行列表現の値域の単純成分への分解を用いることで、非常に見通しの良い証明を与えることができている。研究成果をまとめた論文をCanadian J. Math. に投稿していたが、ごく最近受理された。 以前からさまざまな分野で重要な役割を果たしている力学系の分岐点について、分岐点が有限集合ではない状況を含め、作用素環の観点からの見通しが進展しつつあるこ、最近の結果については論文投稿済みであり、またさらに後継論文を作成していること等が、「当初の計画以上に進展している」と判断する理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の方針で研究を推進する。 すでに、テント写像、シェルピンスキ・ギャスケット、一次元区間力学系などの例において、付随するC*-環のコアのK群の計算、および次元群の一部である標準的準同型の計算を行っている。その際に、K_0群は無限巡回群、標準的準同型は分岐点の個数個のシフトと同型になっていた。高次元の状況に対してこの計算を発展させ、分岐点の個数が無限のときの状況も解析する。また、自己相似写像の次元群について、トレースとのペアリングを考えることにより、正錐の構造を決定する。 テント写像の直積などの例に対して、これまでの研究期間に、イデアルの分類、離散トレースの分類、および離散トレースからの分岐情報の復元などを行ってきた。これらの研究の完成として、コアの有限トレースの完全な分類を行なう。そのために、高次元の分岐点集合における測度について系統的な解析を行なう。 また、リーマン球面上の有理関数力学系に付随するC*-環に対して、以前に離散トレースの分類を行ったが、イデアルの分類、連続トレースの分類等が今後の課題である。また、ジュリア集合に重点を置いて研究して来たが、ファトウ集合についても解析を進め、連続トレースの分類に発展させる。また、有理関数力学系に付随するC*-環の情報から、ジュリア集合上の作用を復元することもめざす。 最終年度であり、昨年度までの研究を完成させるとともに、次の期間の研究の準備として、これまで調べてきた具体例に加え、高次元離散グラフ、複数の有理関数から生成される半群力学系などに対しても、付随するC*-環についてトレース、イデアルなどコアの性質を解析していく予定である。
|
Causes of Carryover |
研究が十分に進み、経費に剰余が生じたが無理には使用せず、次年度の請求額と併せて使用することとしていた。さらに、年度末に出張が困難になったため、経費が予定よりも多く余ってしまった。 連携研究者である九州大学の綿谷安男名誉教授と研究打合せを行なうための旅費、名古屋大学の山上滋教授、千葉大学渚勝名誉教授等から研究情報を得るための旅費、学会、シンポジウムなどで成果を発表するための旅費などを使用する。また、作用素環、力学系関係の図書を購入する。また、論文出版のため、投稿費用も支出する。次年度が最終年であるため、研究成果を取りまとめるための費用も支出する。
|
Research Products
(4 results)