2016 Fiscal Year Research-status Report
値分布論をモデルとした複素函数論の超離散的関数論への変換と諸分野への応用
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16K05194
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
藤解 和也 金沢大学, 電子情報学系, 教授 (30260558)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トロピカル値分布論 / ネバンリンナ理論 / 超離散方程式 / 有理型函数 / max-plus代数 / 国際研究者交流 / Finland / Joensuu |
Outline of Annual Research Achievements |
複素平面全体で定義される有理型函数と実数直線全体で定義される区分的線型な連続関数の間にNevanlinna-Cartan流の値分布理論を透した緊密な対応が存在することを先行研究で確認した。その基礎には、べき級数展開への微分演算の作用とmax-plusの意味での級数展開と差分演算の作用に関する対応関係がある。本研究課題の目的は、これらの値分布論に上記のような「辞書」が成立する過程を精査し、複素函数論に於けるいくつかの典型的な結果について超離散化の可能性を検証して、その知見を複素函数に適用可能な手法の発見に結び付けることである。このために必要不可欠なのが新たな「差分」演算の導出である。例えば複素微分方程式の局所解の超離散化には、有界開区間上の区分的線型な連続関数の関数論的な性質の解明が求められる。微分作用素では函数の定義域が複素平面全体か単位円板かに依らず共通した手法が確立されており、値分布理論的な評価も各理想境界の近傍での挙動以外は同じ形になる。これに対してaffineなシフトは当然ながら有界区間では機能せず、「hyperbolicな」シフトの導入が必須となる。勿論、それは複素函数に対しては一次分数変換、つまりMoebius変換に対応するべきであるが、この「差分」化による方程式の複素解析的な解の、少なくとも値分布論的な研究は知られていない。本年度の研究実績として最重要な結果が、Prof.Ilpo Laine (University of Eastern Finland)との共同研究による超離散の意味でのある一次分数変換を導出し、それを用いて有界区間上の値分布論を確立できたことである。この論文では、実数直線上での値分布理論の各評価を有界区間で再現し、また超離散版の指数関数や周期関数をそれらが満たす差分方程式と共に有界区間上で再構成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一番の根拠は、有界区間上に於けるいわゆるトロピカル値分布理論が完成できたことである。その基礎となるアイデアがaffineの意味でのシフトを有界区間に対応させるべくmax-plus代数を用いたある特殊な一次分数変換を利用し、その意味でhyperbolicなシフト作用素を用いることであった。例えば、単位円板上で何某か最適なMoebius変換を用いて差分作用素の代替とするという考え方は従来からあった筈である。ただ、それが複素平面上でのシフト作用素に劣らず良い性質を有するという結果は未だ得られてはいないと思う。本研究課題ではそれを最終的な目標の一つと位置付けているが、そのための考察は大きくは進んでいない。それゆえに、今回、区分的線型な関数と言う極めて特殊な対象ではあるものの、実数全体で得られた諸結果に自然な形で対応するように有界区間上の結果が示されたことは、その目標に着実に近づいたとの実感がある。進展の度合いとその方向の何れも当初に期待したものに一致する。更に、差分作用素の有効性を解析数論的な観点で検証するという実験的な試みや、指数函数や楕円函数の超離散化の存在を根拠として、元の複素函数が持つ様々な特性を微分方程式や函数方程式を通して調査するという方向からの考察など、フィンランド(Janne Heittokangas, Risto Korhonen, Ilpo Laine)、中国(Nan Li, Weichuan Lin, Kai Liu, Zhi-Tao Wen)、アメリカ(Gary G. Gubdersen)そしてドイツ(Norbert Steinmetz)の研究者と連携研究者(Katsuya Ishizaki)との共同研究が着実に進展しており、そのうち現時点で計5編の論文を投稿できていることが進捗状況が上記区分に該当すると判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記したhyperbolicな意味でのシフト作用素を微分作用素の代替物として、複素解析に関わる様々な研究分野の成果を超離散的な関数に対して書き換えていくことが今後の研究の主題である。そのためには、複素円板上の理論に於いて重要な役割を果たしている球面微分に対応する対象の発見が本質的である。勿論、それは函数の像の計量に関わるものであるから、超離散的な意味での積分演算として上記目標に有効な手法が何かという根源的な問いが立ち塞がってくる。どのようにこの難題を克服するかについては、複素解析学の古典的側面の一つである幾何学的函数論を超離散的な対応物の視認が可能な領域と考えて検証しすることを主たる推進方策と考えている。そのために本研究課題の連携研究者とより緊密な連絡を保ち、併せてアメリカからその分野で先駆的な業績がある研究者を招聘するなどして有機的な活動を維持しつつ本目標への到達を図る。また、現在進行中の共同研究についても更なる発展を模索しつつ、超離散化の可否という視点から古典的と評価される複素解析学の諸結果に改めて光を当てて浮き上がらせることを推進方策の中心に据える。併せて、この方策に旨く乗るような複素解析学の結果を見出す試みを通じて、副次的に本研究課題の目的である「複素解析的手法への還元」の達成を図ることも推進方策として準備している。尚、これらの方策はいずれも現在進行している国際共同研究と、今年度から本格的に始動する予定の国内の連携研究者との新たな研究活動を通して成し遂げる得るものと考えており、当初計画からの特段の変更は必要としていない。
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Research Products
(9 results)