確率偏微分方程式の解の正則性と逆問題の研究

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K05196
• Research Institution: Shinshu University
• Principal Investigator: 乙部 厳己 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (30334882)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2021-03-31
• Keywords: 確率偏微分方程式 / 確率解析

Outline of Annual Research Achievements

非線型の方程式を含む非適切な確率偏微分方程式の繰り込み解の体系的な研究がこの数年に始まった。本年度はこれらの中でもその動機づけとなったKPZ方程式に注目した研究を行った。KPZ方程式に関しては、Heirerによる正則性構造の研究、Funaki-Quastelによる雑音正則化による研究などがあるが、いずれも完全線型である確率熱方程式を議論の出発点とし、そこからCole-Hopf変換を経て、そこで神秘的な対称性の構造をうまく見いだして目的の繰り込み解への収束を議論している。本年度の研究では、この現象を実解析学の観点から理解することを目標とした。残念ながら現時点ではまだ対称性を完全に説明するところまでは到達していないが、雑音項をフーリエモードに展開し、それぞれのモードの解と雑音項との相互作用が非線型項を通じてどのように他のモードに伝播するかを詳細に検討した。これは実際には、確率偏微分方程式の解の定義に関して、空間方向の雑音成分との確率積分をどのように扱うのかという問題とも深く関係しており、増大情報系をもたない確率積分の概念の定義可能性の問題とも関連して、確率解析の基礎的な問題としても重要な観点を含んでいる。
一方でKPZ方程式そのものに目を向けると、Hopf-Cole変換によって各雑音モードがどのように変化するかを解析し、それと熱方程式のモードの遷移とがそのように関係して対称性が表れるのかを解明しなければならない。これは伊藤公式に本来内在する繰り込みの処方が実解析的にどのような観点から捉えられるかという問題意識にたった上で、詳細な解析を必要としている。その解析の複雑さから、今年度においてはそれを完全に解明することはできなかったが、来年度以降の研究において解明を進められることを期待している。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本来であれば今年度は欧州に出張し、他の研究協力者らと議論を行って問題点をより整理し、議論をより簡潔な筋道の元で展開をする予定であった。残念ながら事情があり今年度の出張予定を見送らざるを得なかったため、彼らとの議論を通じて得られると期待していた論点整理が思うほど進捗しなかった。さらに、境界条件を持つ場合のKPZ方程式の繰り込み解の研究も平行して行っていたが、Heirerにより彼自身の正則構造理論を拡張することで解の存在が主張されたため、研究の方針を変更する必要もあった。

Strategy for Future Research Activity

来年度以降については海外出張を場合によっては海外からの研究者招聘に切り替え、研究協力者らと共に議論を進める予定である。またKPZ方程式に関して開始した雑音モードの遷移は、研究計画に当初示したレヴィ型の方程式の研究に対しても大きく寄与するものと考えているので、引き続き雑音モードと空間方向の確率積分及び伊藤公式についての基礎的な研究を実行する予定である。

Causes of Carryover

今年度は事情により海外出張を実施することができなくなってしまったため、旅費の使用額に差額が生じた。

Expenditure Plan for Carryover Budget

前年度に実施できなかった研究協力者との研究打ち合わせを行うために、海外出張を行うか、または海外から研究者を招聘するために、H29年度請求額と合わせてその費用として使用する。