2018 Fiscal Year Research-status Report
ランダム媒質における有限区間上の広義拡散過程の様相の解明
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16K05205
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
富崎 松代 奈良女子大学, 名誉教授 (50093977)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯塚 勝 福岡女子大学, 国際文理学部, 学術研究員 (20202830)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 広義拡散過程 / モランモデル / 極限過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
ランダムな環境変動下での集団遺伝学の確率モデルに関して、確率的自然淘汰を独立で同分布にしたがう有界な確率変数列で定義し、確率的自然淘汰を伴う離散時間モランモデルとライト・フィッシャーモデルを定式化した。モデルと個体数に依存する適切な時間尺度変更を用いて2つの連続時間確率過程を導入し極限を考察した。確率過程の増分のモーメントの極限を個体数無限大のもとで評価した。その結果、2次モーメントの極限が2つの確率過程列で異なる場合があることを明らかにした。また、これらの確率過程列は右連続で左極限を持つ関数の空間 Dで tightであることを証明した。次に、幾つかの場合にこれらの確率過程列は有限次元分布の意味で収束し、tightness によりこの収束は関数空間Dにおける確率測度の弱収束に拡張できることを示した。2つの確率過程列の2次モーメントの極限が一致しない場合があるという結果は、決定論的自然淘汰の場合と異なり確率的自然淘汰の存在下では、モランモデルとライト・フィッシャーモデルの個体数無限大での極限が一致するとは限らないという生物学的に重要な知見をもたらした。これらの成果を研究集会で発表し、学術論文として公表した。 離散時間多次元マルコフ過程を用いて定義される遺伝子重複を伴う互助的相互作用の確率モデルに対して、見本路の性質をコンピュータ・シミュレーションを用いて解析した。その結果を確率過程論的に考察し、互助的相互作用の確率モデルに与える遺伝子重複の効果を明らかにした。この知見を前年度までに得られた結果に加えて学術論文を作成し公表した。 一次元拡散過程の直積として表現される多次元拡散過程に対して、その均質化問題を確率過程列の極限定理の立場からとらえ直した。拡散過程の特性量の列の極限がディリクレ形式の極限に反映されることを示し、均質化問題を特徴づける特性量の簡単な導出方法を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要は、平成30年度の研究計画として記載した内容がおおむね順調に進展していることを示している。 ランダムな環境が時点ごとに独立な場合に、モランモデルとライト・フィッシャーモデルの2次モーメントの極限が2つの確率過程列で異なる場合があることを明らかにしただけでなく、これらの確率過程列は右連続で左極限を持つ関数の空間 Dで tightであることも証明した。さらに、幾つかの場合にこれらの確率過程列は有限次元分布の意味で収束し、tightness によりこの収束は関数空間Dにおける確率測度の弱収束に拡張できることを示した。 固定された環境の下で、直積拡散過程列の極限問題の一つとして均質化問題を考察し、対応するディリクレ形式の列の極限に直積を構成する一次元拡散過程の特性量の列の極限が自然に表れることを明らかにし、均質化問題の構造を拡散過程列の極限問題として捉えることができることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度~30年度に得られた結果を用いて、研究代表者、研究分担者、研究協力者は、討論を行いながら、以下の研究を推進し、学術論文を作成する。 ①時点ごとに独立であるランダムな環境における離散時間モランモデルとライト・フィッシャーモデルについて、有限次元分布の収束が証明できていない場合の考察や、確率的自然淘汰が独立ではなく離散時間マルコフ過程となる場合の考察を行う。後者の場合、独立な場合に用いた手法が適用できない。そこで新たな手法として、マルチンゲール問題と関連して捉えることを試みる。 ②尺度関数列・速度測度関数列の極限の考察だけでは決定できない広義拡散過程列の収束問題を考察する。既知既存の収束定理では解決できないため、有限次元分布の基礎となる確率密度の構成を時間と空間のスケール変更により見直し、新たな極限定理について考察する。 ③平成30年度は、直積拡散過程について均質化問題を考察することにより、ディリクレ形式の収束問題としての成果を得ることができた。その際、正値連続な加法的汎関数の収束問題が関連していることが判明した。このような汎関数の収束問題は、直積確率過程だけでなく斜積確率過程についても考察可能である。本年度は、斜積拡散過程についてこの問題を考察し、汎関数の収束問題、ディリクレ形式の収束問題について新たな手法の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由)平成30年3月17日~20日に東京工業大学で開催された日本数学会に出席を予定していたが、腰痛の悪化により移動することが困難となったために、出席を取りやめた。
(使用計画)本年度は最終年度であることから、研究成果のとりまとめに向けて、研究分担者、研究協力者と頻繁に研究討論を行う必要がある。このために、研究打合せ旅費として使用する。
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