2019 Fiscal Year Research-status Report
構造相転移を伴う非線形自由境界問題における形態変化する安定構造の研究
Project/Area Number |
16K05224
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
白川 健 千葉大学, 教育学部, 准教授 (50349809)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 構造相転移を伴う自由境界 / 最適制御理論の構築 / 幾何学的形態変化の考察 / 仮似変分不等式による数学モデル / 結晶粒界の1次元KWC型モデル / 時間離散化した近似問題 / 最適制御の必要条件 / 結晶構造解の時間局所解の存在と一意性 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度では、「(A)構造相転移を伴う自由境界に対する最適制御理論の構築」と「(B)自由境界の幾何学的な形態変化の考察」の2つの課題に取り組み、そのそれぞれにおいて、以下の研究成果を得た。 [課題(A)に関する成果] 最適制御理論に関する研究では、「仮似変分不等式による数学モデル」と「結晶粒界の1次元KWC型モデル(Kobayashi-Warren-Carter型モデル)」の2つを研究対象とした。仮似変分不等式の研究では、広範囲の自由境界問題を扱い可能とする抽象数学理論による解析法を構築し、得られた成果を国内外の3件の研究集会において発表した他、論文2編を学術専門誌に投稿した(2編とも査読中)。他方で、結晶粒界のKWC型モデルの研究では、空間1次元のケースにおける最適制御問題の可解性および、最適制御の必要条件(支配方程式)を明らかにした。更に、1次元KWC型モデルを時間離散化した近似問題についても考察を進め、最適制御を効率的に算出するアルゴリズムの構築に対する有力な手がかりを与えた。こちらに関しては、国内研究集会における1件の口頭発表(日本数学会)および論文1編の学術雑誌への投稿(査読中)という形で、計画が進行している。 [課題(B)に関する成果] 課題(B)では、結晶粒界の1次元KWC型モデルに的を絞り、多結晶体特有の「ファセット構造」が形作る自由境界の幾何学的形態変化の追跡を、活動の狙いとした。この狙いの下で、「結晶構造解」という数学理論の枠組みを独自に定義し、1次元結晶構造解の時間局所的存在と一意性の証明に成功した。得られた研究成果については、口頭発表を中心に国内外の5件の研究集会において成果発表し、論文発表についても現在執筆作業が進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和元年度では、前半期において研究実績欄で述べた2つの課題(A)(B)に対する成果の骨子を組み上げ、後半期において研究成果を口頭発表・論文投稿の形で発信する活動に専念する計画であった。 このうち課題(A)に関しては、「仮似変分不等式による抽象的観点からの考察」と「結晶粒界という具体的な応用を念頭に置いた考察」の双方のアプローチによる成果を得ている事から、計画は概ね順調に進捗していると評価する事ができる。結晶粒界関連の成果が空間1次元の場合に限定されている点についても、実際は成果を一般多次元の場合に拡張する目算がほぼ出来上がっており、既に論文執筆に着手して国内外の研究集会への参加予定を立てるなど、研究成果の発表に向けて具体的な構想を検討する段階にある。特に、時間離散化した近似問題に着眼した研究では、連続モデルでは扱いの難しい複雑な相互作用の効果をも加味した成果を得る事に成功しており、今後必要となる数値実験の信頼性を保証する理論的基盤の整備も着実に進んでいる。 これに対して課題(B)では、研究成果が空間1次元の場合に限定されている点を差し引いても、未解決であった解の一意性に対する成果が得られた点は大きな前進である。また、時間局所的な存在定理が証明できた点も、数学解析の成果としては順当である。しかしながら、時間大域的存在については当初の予想よりも解の挙動パターンがはるかに複雑である事がわかり、時間無限大での挙動や逆問題等の発展的課題へ研究を進展させるには至らなかった。こちらに関しては、定常解の解構造の考察や数値実験等の基礎的な研究が必要であり、成果の産出には計画の軌道修正を要する見通しである。 これらを勘案して令和元年度の活動を振り返ると、進捗の順調な部分とそうでない部分を差し引いて、全体として「やや遅れている」という評価が妥当である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度では、計画に遅れの出ている「結晶構造解の数学解析」を、活動の中心として定める。しかしながら、計画が難航した場合に備えて、「最適制御問題」に関する活動も継続し、当該年度内に確実に成果を報告できる体制で臨む。どちらの活動においても、計画推進の要となるのは国内外の研究協力者との連携であり、このため「10月にワルシャワ大学(ポーランド)にて」、「12月にジョージ・メイソン大学(アメリカ合衆国)にて」という様に、年度内に少なくとも2回は国際会議への出席等を通じて海外研究者と研究討論を行う予定である。これと同時に、Microsoft Teams等のWeb会議機能も活用し、相手との連絡手段を複数通り確保することで、渡航の自粛・規制などによるイレギュラーな状況にも対応可能な情報機器と通信環境を整備する。以下では、先で定めた2つの活動対する、令和2年度における研究計画ついて説明する。 [結晶構造解の数学解析における研究計画] 1次元結晶構造解の時間大域解の存在に対する十分条件を明らかにし、時間無限大での挙動や逆問題等の発展的課題への足掛かりを作る。また、最近見通しが得られた球対称な2次元定常解の研究成果を基に、球対称な2次元結晶構造解の解の存在と一意性に関する研究にも着手する。更に計画の進捗が順調な場合には、一般多次元の場合にも活動範囲を拡大する。 [最適制御問題における研究計画] 最適制御問題に関しては、一般多次元における結晶粒界のKWC型モデルを研究対象とする。こちらに関しては、偏微分方程式による連続モデルと、時間離散化による近似問題の双方に対して、研究成果を得る目算がついている。従って令和2年度では、研究成果を発表することを活動の重点とし、国内外の研究協力者と分担して作業の効率化を図ることによって、当該年度内におけるすべての成果発表を実現させる。
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Causes of Carryover |
[次年度使用額が生じた理由] 令和元年度で計画していた「KWC型モデルの結晶構造解の数学解析」に関する活動において、結晶構造解の時間局所的存在と一意性の保証までは計画が順調に進捗したが、時間大域的な解の存在を考察する段になって、証明が難航した。更に当初の予想を否定する数値実験データも得られたため、計画の大幅な軌道修正を迫られる事態となり、これに伴い次年度使用額の設定と研究期間の延長が必要となった。 [予算の使用計画] 令和2年度は計画最終年度となるため、成果発表に向けた作業の効率化に重点を置く必要がある。このため、令和2年度では国内外の研究協力者間の円滑な連携体制の実現が最も重要となり、出張旅費には十分な予算配分を必要とする。同時に昨今の社会情勢を鑑みると、渡航の自粛・規制などの理由で、計画通りに研究打ち合わせや口頭発表ができなくなる事態に備える必要がある。こうした事態への対応策としては、Microsoft Teams等のWeb会議アプリを介して研究協力者と日常的にコミュニケーションを取っておくことが有効と考えられるが、情報管理の安全性をも鑑みると、使用目的を本研究計画の課題遂行に限定した専用のノートPC(もしくはタブレット)が必要となる。以上を勘案し、令和2年度では執行可能な30万円に対し、(物品費):(旅費)=1:2の配分を目安に、予算を執行する計画である。
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Research Products
(15 results)