2016 Fiscal Year Research-status Report
優臨界楕円型偏微分方程式に現れる新現象と解析手法の探求
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16K05225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 安人 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (90374743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソボレフ優臨界 / 半線形楕円型方程式 / 分岐理論 / Joseph-Lundgren指数 / 交点数 / 一般化相似変換 / 一般の増大度 / 準線形楕円型方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
ソボレフ優臨界と呼ばれる非線形楕円型偏微分方程式は,非線形性が強いために,通常の(ソボレフ劣臨界の)楕円型偏微分方程式で有効だった手法(特に変分法)が破綻し,その解構造は未知の部分が大きいことが知られている.そこで,球領域上の正値解に限定し,解構造を解明することが本研究の基本方針である.球領域上の正値解に限定することによって,偏微分方程式の手法に加えて常微分方程式の様々な手法が適用でき,解析が可能となる.また,解構造とは,具体的には拡散係数の逆数をパラメータととることによる分岐図式のことである.球領域上の正値解の解構造の研究において,分岐問題として研究する方法が有効であることは,70年代から認識されていた. 研究代表者のこれまでの研究において,非線形項の主要部が,べき型と指数関数型の2種類の非線形項のクラスの場合に,取り得る分岐図式を明らかにし,非線形項と分岐図式との対応関係を明らかにしてきた.特に主要部がべき型の場合は,3通りに分類されることを明らかにし,それぞれに対する十分条件を得た. 今年度は以下の2つの成果があった.(1)純粋べき型の非線形項を持つ(p-Laplacianやk-Hessianを含む)準線形楕円型方程式の分岐図式を明らかにした.分岐図式は2種類あり,純粋べきの指数が,ある数以上か未満かに応じて分かれる.その数は半線形楕円型方程式の場合のJoseph-Lundgren指数の一般化に対応しており,今まで知られている様々な方程式のJoseph-Lundgren型の指数をすべて含む.(2)次にべき型や指数関数とは限らない一般の増大度を持つ非線形項に対する半線形楕円型方程式の分岐図式を,部分的に明らかにした.そこでは,藤嶋陽平氏(静岡大学)による新しい尺度変換(一般化相似変換)と,藤嶋陽平氏と猪奥倫左氏(愛媛大学)による変数変換が鍵となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画では,平成28年度は楕円型偏微分方程式の解における線形化問題のスペクトル解析がテーマであった.また,平成29年度以降は,(1)非線形項の主要部がべき型の半線形楕円型方程式のDirichlet問題の球対称解に対して分岐図式を決定する,(2)Joseph-Lundgren指数と呼ばれる指数より大きい場合のスカラーフィールド方程式のNeumann問題の球対称解に対して分岐図式を決定する,(3)非線形項の主要部がべき型や指数関数とは限らない一般の増大度を持つ非線形項に対して半線形楕円型方程式のDirichlet問題の球対称解に対して分岐図式を決定する,(4)上記の問題に対して準線形楕円型方程式の場合を考察する,の4つのテーマを挙げた. 平成28年度は,(1)に関しては当初予想していた最低限の成果はあったものの,大きな進展はなかった.しかし(3)に関しては,予想を上回る大きな進展があった.特に,藤嶋陽平氏と猪奥倫左氏により最近発見された2つの変数変換が,主要部がべき型や指数関数とは限らない一般の増大度を持つ場合に対して,有効な手法であることが明らかになった.それを用いて,指数関数を超える増大度を持つ場合など,申請時には全くめどが立っていなかった(先行研究がほとんどないような)場合において,一部の方程式については詳細な分岐図式が得られた. (2)に対しては,平成28年度は全く進展がなかった. (4)に対しては,特異解の構成と,特異解と有界な解との交点数の解析が困難であることを認識し,試行錯誤を続けた結果,まだ完全な証明には至らないものの,証明のめどをつけた.具体的には,特異解の構成に関しては,特異点付近での発散の増大度を特定した.さらに,交点数に関しては,半線形と準線形の両方について非線形項が純粋べき型の場合に解決した.それらを総合して,進捗状況を判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画では,非線形項の主要部が純粋べき型か指数関数の半線形方程式の場合しかめどが立っていなかったので,その2つの場合に対して深く研究する方向を目指していた.しかし,その後,研究実績の概要にあるように,藤嶋陽平氏と猪奥倫左氏により発見された新しい2つの変数変換が突破口になり,これまでの研究では扱えなかった,べきや指数関数以外の増大度をもつ非線形項に対しても,楕円型偏微分方程式の分岐問題や放物型方程式の爆発問題が扱えるようになった.これは全く予想していなかったが,先行研究があまりなく興味深いテーマであるので,以前予定していた研究テーマと平行して,進めて行きたい. 今後の研究テーマとしては,次が挙げられる.(1)一般の増大度を持つ非線形項の半線形楕円型偏微分方程式の詳しい解構造の解明.(2)一般の増大度を持つ非線形項の準線形楕円型偏微分方程式の詳しい解構造の解明. (1)については,増大度が比較的小さい場合,具体的には,臨界ソボレフ指数より大きいが,Joseph-Lundgren指数とよばれる指数より小さい場合は,満足できる結果が平成28年度に得られた.そこで鍵となっているのは,特異解の存在と,爆発解析と,古典解と特異解の交点数が無限大となることの3つである.しかし,Joseph-Lundgren指数より大きい場合は,交点数が0となり,前の場合に有効だった爆発解析と交点数を組み合わせた議論が使えないことが知られている.そこで,それに変わる手法を開発することが大きな目標となる. (2)については,(1)の拡張であるが,半線形の場合に有効だった手法が準線形の場合に上手くいかないことが多いことが,この一年の研究で明らかになった.例えば,特異解の構成,交点数の議論などである.それらの技術的な問題を一つ一つ解決していくことが目標である.
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Causes of Carryover |
平成28年9月18日~24日にフランス・フレジュスで開催された研究集会「ReaDiNet2016 Reaction-Diffusion Systems in Mathematics and Biomedecine」における研究成果発表を当初は予定していたが,直前になり,出張自体をキャンセルしたことにより,当初の予算計画と異なってしまった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度分の研究費を用いて,平成29年度は,当初の計画になかったスロバキア・ブラチスラバにおける研究集会「Equadiff2017」における講演に招待されたので,その出張費に充てる予定である.
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Research Products
(11 results)