2016 Fiscal Year Research-status Report
数理生態学に現れる自由境界問題と反応拡散方程式の研究
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16K05244
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山田 義雄 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20111825)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 反応拡散方程式 / 自由境界問題 / 比較定理 / 解の漸近挙動 / 数理生態学 / 非線形解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が取り組んだ研究テーマは反応拡散方程式に対する自由境界問題である。時間変数を t 空間変数を x とする。区間 [0,h(t)] において u(t,x) は反応拡散方程式を満たし、右側の境界 x=h(t) は Stefan 条件を満たしながら動くとする。このように (u,h) を未知関数とする自由境界問題は、数理生態学における生物種の侵入・移動現象をモデルとして近年盛んに研究されている。この場合 u が生物種の個体数密度、 h が生息領域の最先端を意味し、生物が時間とともに生息域を拡げる現象を記述している。 固定境界に斉次 Dirichlet 条件を課したとき、種の絶滅に対応する解を vanishing 解、種の展開・繁殖に対応する解を spreading 解と呼ぶ。時間が無限大に近づくとき、解がどんな振舞をするかという問題については一定の成果が得られている。我々が取り組んだテーマは spreading 解について、自由境界の展開速度、および自由境界の近傍での解の形状を精確に求めることである。時間無限大になるにつれ、自由境界の展開速度が一定値 c に近づき、自由境界の近傍で解は進行破解のように q(h(t)-x) の形で表わされると考える。このとき一定速度 c と特定の関数 q を求める semi-wave 問題が導かれる。semi-wave 問題が一意解 (q,c) を持つとき、spreading 解について自由境界の展開速度は h(t)/t~c の形で評価できることを示した。この結果の証明におけるポイントは比較関数を上手に構成して、比較定理を応用することである。 固定境界が斉次 Neumann 条件の場合、解の漸近的形状についてよりシャープな評価がすでに知られているので、我々の問題についても類似の精密な評価が成立すると予想され、証明は着々と進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題は、反応拡散方程式に対する自由境界問題について、時間無限大での解の漸近挙動を詳細に評価することである。解の漸近挙動について考察する際、重要なクラスは spreandig 解と vanishing 解である。このうち spreading 解について、自由境界 h(t) の展開速度、u(t,x) の漸近的形状、とりわけ自由境界 x=h(t) の近傍での解の形状を知ることを重点課題とした。固定境界が斉次 Dirichlet 条件の場合の spreading 解について、自由境界の展開速度を評価できた点は大きな成果である。斉次 Neumann 条件の場合と同様に semi-wave 問題の解 (q,c) が重要な働きをする。この解 (q,c) をうまく利用して、自由境界問題の解について上と下から評価すれば、比較定理により解の評価が得られる。ここでさらに精密な比較関数を構成することができれば h(t)~ ct+H (Hは定数) および自由境界の近傍で u(t,x)~q(h(t)-x) の形の漸近評価が期待できる。これは研究継続中である。 反応拡散方程式における反応項が Holling III型の場合、2つの安定な正値平衡点を持っている。固定境界が斉次 Neumann条件の場合、これらの平衡点が2種類の spreading解を生み出し、それぞれの自由境界が異なる展開速度を持っている。本研究において対応する semi-wave 問題の解を用いて、時間無限大における自由境界の展開速度、解の漸近的形状について正確な評価を導くことができた。 なお、Holling III 型の反応項を扱う際 semi-wave 問題が解を持たない場合があり、このときの解の形状評価は未解決である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 固定境界において斉次 Dirichlet 条件を課した1次元自由境界問題に対しては、spreading 解について、自由境界 h(t) と解 u(t,x) に関する漸近的形状の評価が課題である。時間無限大となるにつれ、u(t,x) は正値定常解に広義一様収束する、しかし、この解は自由境界付近の形状については情報を与えない。自由境界付近の形状は semi-wave 問題の解によって近似されると推測される。これらの結果を統一した形で解の漸近評価につなげたい。 (2) Holling III 型の反応項を扱うとき、big spreading 解に対応する semi-wave 問題が解を持たないケースがある。この場合、自由境界の展開速度は時間とともに一定値に収束することが示される。解の形状については、数値シミュレーションから、テラスを伴う形状が期待される。このような解形状を達成するためには、small spreading 解に対応する semi-wave 問題の解と2つの平衡点を結ぶ進行波解を利用することが有効と推測される。この方針で研究継続中である。 (3) 空間的に非一様な環境下での自由境界問題の解析も興味深い問題である。反応項が空間的非一様性を持つとき、数値シミュレーションによれば、展開速度が非常にゆっくりしたspreading 解も存在する。このような現象は semi-wave 問題の解からは説明できないため、新しいアイデアでの解析が必要となる。 (4) 高次元領域での自由境界問題の研究も非常に重要である。1次元領域と異なり、高次元領域での自由境界問題は内側の自由境界が有限時間で1点に凝縮し、消失するケースがある。このような場合、弱い意味での解を考える必要があるが、消失する直前までは正則性を保持すると思われ、解の形状を知ることは数学的にも興味深い課題である。
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Causes of Carryover |
2016年度は10月以降に学科主任の職務についたことにより、研究集会への出張日時に制約が加わるようになったこと、および年末の研究集会への科研費による出張が体調不良により中止せざるを得なくなった。これらの理由により、年度当初に予定していた研究費使用を順調に実行できなかったことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度当初に福岡工大での連続講演の依頼を受けており、次年度に廻した研究費を出張旅費として使用する計画である。さらに、秋以降は主任の職務を終える予定であり、研究集会・シンポジウムへの出張旅費に充当する計画である。
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Research Products
(7 results)