2017 Fiscal Year Research-status Report
X線精密分光とスペクトル変動観測による巨大ブラックホールと銀河の共進化の研究
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16K05296
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
寺島 雄一 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (20392813)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ブラックホール / X線分光 / 宇宙プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
「ひとみ」衛星搭載軟X線分光器による観測を行い、ペルセウス座銀河団の精密分光データの解析を進めた。まず、ペルセウス座銀河団の中心銀河NGC 1275の中心部に存在する巨大ブラックホールの周辺物質からの鉄蛍光輝線の精密分光データをもとに、物質の運動状態を決定した。これにより、ブラックホール周辺物質の存在する領域が銀河中心部から1.6キロパーセク以内であることを明らかにした。この領域は、活動銀河核で中心部を隠す分子トーラスとよばれる構造か、中心から数100パーセク程度の領域に存在する中心核周辺円盤に対応するものである。このようなブラックホール周辺物質の精密分光観測は世界初の結果である。 また、同じ観測データを用い、銀河団内の高温プラズマからのX線放射の解析も進めた。銀河団プラズマはほぼ衝突電離平衡状態にあり、熱的プラズマからの放射過程を理解する基礎となる。この精密分光データ解析から、熱的プラズマの観測的特徴、元素組成、運動状態、温度分布について調べ結果を発表した。また、原子物理的な検討を行い、プラズマ放射コードの現状についてまとめた。これらの結果は、今後ブラックホール周辺物質に見られる光電離プラズマとの比較をする基礎になるものでもある。さらに、中心の巨大ブラックホールからの高速アウトフローは、銀河団スケールに影響を及ぼし高音ガスの乱流速度を増しているが、その程度は大きくなく、速度分散の大きなガスでも200 km/s程度であることを明らかにした。 X線精密分光と並行して、相補的な観測として、X線/可視光/赤外線の広視野サーベイデータを用い、遠方(赤方偏移4程度)の巨大ブラックホール(クェーサー)や、吸収を受けた巨大ブラックホールの探索を行った。これにより、可視光で暗くX線で明るく見える天体内部の吸収物質について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ひとみ」衛星搭載軟X線分光器を用い、ペルセウス座銀河団中心に存在する巨大ブラックホール周辺物質のの精密分光を行うとともに、銀河団ガスの運動学的解析や巨大ブラックホールからのアウトフローの影響を観測的に明らかにすることができている。また、プラズマ分光データは、衝突電離平衡状態にあるガスと、ブラックホール周辺で期待される光電離プラズマの区別をする基礎となるものである。一方、「ひとみ」衛星による巨大ブラックホールの観測は計画通りには進められなかったが、得られたデータを多角的に解析するとともに、相補的に用いることができる多波長データを併用することで、当初の目的の巨大ブラックホールからのアウトフローと、母銀河やその外部の銀河団環境へのフィードバック過程の研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き巨大ブラックホール周辺物質の観測と、ブラックホール周辺環境への影響の観測的研究を進める。特に、巨大ブラックホールからのX線の強度変動の要因の一つと考えらている、吸収物質の運動に伴う吸収量の時間変化に着目したデータ解析を行う。このさい、多くの事例を研究するため、これまでに各種X線天文衛星で得られた大量のアーカイブデータも利用し、アウトフローガスなどの視線上の吸収物質の時間変化などに着目した解析を進める。また、X線分光データを補うため、可視光、紫外線、赤外線といった多波長データも併用し、吸収物質の性質やダイナミクスを探る研究を進める。これらの結果を総合し、本研究計画の最終年度にはブラックホールからのアウトフローが周辺環境におよぼす影響を総括し、銀河と中心核ブラックホールの供進化過程を解明を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度に本研究課題の成果を発表するのに適切なテーマの国際会議がフランスで開催されることがわかったため、当初の予定に加えて、そのための海外旅費の一部に充てる予定である。
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Research Products
(24 results)