2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K05299
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
大越 克也 東京理科大学, 基礎工学部教養(長万部), 准教授 (50453832)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クエーサー吸収線系 / 銀河形成 / 銀河間物質 / 理論物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請書記載の各研究課題に関する平成29年度に行った研究実績は以下の通りである。
(1)クエーサー吸収線系母銀河の解明に関して。2017年2月に実施したすばる望遠鏡(ハワイ)によるクエーサー吸収線系の母銀河観測に関するデータ解析を終了した。これに基づく中性水素柱密度の高い吸収線系および金属吸収線系に関する観測結果を踏まえて、本課題に関する継続的な観測計画を策定した。
(2)原始銀河および周辺域環境の進化過程の解明に関して。原始銀河周辺域環境の進化過程の解明に際して、銀河形成・進化の初期過程における超新星爆発によるフィードバック等に起因する銀河周辺域物質(Circum-Galactic Medium; CGM)の空間分布を調べることは必要不可欠である。この観点から、信州大学を中心とした研究グループと共同研究を実施した。本研究では、主に銀河周辺域に存在する様々な電離状態をもつ金属イオンによる吸収線の観測的特性から原始銀河周辺域環境を考察した。具体的には、数秒角の離角をもつ13個の重力レンズクエーサースペクトルに現れる約300本の金属吸収線を用いて、CGMの空間分布や電離状態を調べた。その結果、金属吸収線の出現頻度や等価幅の違いから、(a) 赤方偏移z=1~2におけるCGMの多くは、少なくとも500kpc以上拡がっている傾向にあり、(b) 吸収体が離散的に分布している場合、そのサイズは1kpc以下であることが必要であることがわかった(Koyamada et al. 2017)。本研究成果は、赤方偏移z=1~2における電離度に応じた金属吸収線系のサンプルを、従来よりも格段に増やすことにより、統計的に有意な銀河周辺域における金属イオンの空間分布に対して示唆を与えたという点で意義あるものである。この成果を踏まえ、並行して進めている母銀河観測による結果(1)との比較・検証も予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原始銀河周辺域のガスを起源とする中性水素吸収線系の母銀河探査を中心とする観測に関して、平成28年2月に予定されていたすばる望遠鏡の機器故障、および、平成28年4月に予定されていたKeck望遠鏡の波面センサー装置故障によるトラブルで実施できず、本課題に関する当初予定されていた観測データを全く取得できず、遅れた進捗状況にあった。しかし、平成29年2月、すばる観測所(ハワイ)における観測計画の一部が実施でき、データ解析を終え、主に高い中性水素柱密度ももつ吸収線系の母銀河の特性および低電離度を示す金属の空間分布に関する考察を行っている段階にある。 一方、理論モデル構築に関しては、理論研究グループと共同して、主にLymanα輝線天体に関する理論モデルを構築している。上述の原始銀河周辺域のガスを起源とする中性水素吸収線系に注目したクエーサー吸収線系に関する母銀河探査観測結果を踏まえて、研究実績概要にも記載した金属イオンを含めた銀河周辺域物質の観測的特性との比較・検証可能なモデルを構築し、当初予定していた研究目的の完遂を目指した研究計画の進捗状況の改善が望めると考えている状況である。 また、平成29年度から原始銀河に加えて、高赤方偏移における代表的な天体であるクエーサーに注目し、その周辺域に拡がるガスの空間分布、輻射場、化学組成などの特性を、背景にある他のクエーサーのスペクトルを利用して、クエーサー周辺域ガスの起源や進化を解明する研究計画も新たに共同研究において推進しており、平成30年1月にすばる望遠鏡による観測を実施した。原始銀河およびクエーサーの周辺域環境を相補的に比較することにより、本研究課題の推進を多角的に図る予定でもある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題である原始銀河および周辺域環境の進化過程の解明に関して、平成30年度においては、平成29年度に引き続き、クエーサー吸収線系の母銀河やその周辺域環境に関する観測及び理論モデルによる検証を中心とする研究計画を予定している。 現在までの進捗状況に記載したように、原始銀河周辺域ガスを起源とする中性水素吸収線系の母銀河探査の一部が、平成29年2月に実施できたことを受けて、その結果を踏まえて、実施できなかったサンプルの観測計画を実施する予定である。また、近年成果を上げている数Mpcの大規模スケールの原始銀河群探査も視野にいれた観測計画を提案する予定である。本観測データが取得できれば、前者の銀河ハローのサイズから数倍程度に広がる銀河周辺域物質の観測結果と合せて、原始銀河周辺域のより広範囲の考察が可能になると期待している。これと並行して、観測計画の進捗状況を鑑みながら、大規模スケールに特化した数値シミュレーションに基づく銀河形成・進化に関する準解析的モデルを構築することにより、これまでの観測結果を検証をする予定である。 さらに平成30年1月にすばる望遠鏡による実施した観測データを解析し、クエーサー周辺域環境に関する考察する予定である。これにより、原始銀河およびクエーサーの周辺域環境を相補的に比較することにより、本研究課題の推進を多角的に図る予定でもある。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成28年度に実施予定の観測データが装置故障等により取得できなかったために、データ解析に遅れが生じ、成果発表なども含めた必要経費(主に旅費)の支出が予定通り行えなかったため。 (使用計画) 前年度の解析等は比較的順調に進んだため、平成30年度に論文作成や成果発表などに必要な経費(主に旅費や論文出版費)に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Resolving the Internal Structure of Circumgalactic Medium Using Gravitationally Lensed Quasars2017
Author(s)
Koyamada, S., Misawa, T., Inada, N., Oguri, M., Kashikawa, N. & Okoshi, K.
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Journal Title
The Astrophysical Journal
Volume: 851
Pages: 88 100
DOI
Peer Reviewed
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