2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05306
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
朝木 義晴 国立天文台, チリ観測所, 准教授 (00332148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 亜紀治 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (60535631)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 赤色超巨星 / Extreme OH/IR星 / 質量放出 / ALMAサブミリ波高分解能観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 赤色超巨星および長周期光度曲線OH/IR星の星周ガスVLBI科学観測: 平成29年度に日韓VLBI観測網「KaVA」により、赤色超巨星S Per星周ガスの水メーザーと一酸化珪素綱メーザーの同時観測を3エポック実施し、長寿命メーザーのモニタ研究を推進した。また、赤色超巨星とは変光周期が長いという点で共通しているExtreme OH/IR星に対しVLBIによるメーザーモニタ観測を実施しており、このうち2つのExtreme OH/IR星に対してVLBI位置天文観測により恒星までの正確な三角視差(距離)の導出を試みている。 (2) ALMA高空間分解能観測技術試験: 平成29年度ALMA高周波・長基線観測キャンペーンにおいて、ALMA最高空間分解能観測の技術立証を行い、クェーサーにおいて20ミリ秒角を切る角度分解能での撮像性能を実証した。また、星間塵からの放射が卓越した銀河系内の天体でイメージ性能検証を行い、厚い星間塵に覆われた天体をALMAで達成しうる角度分解能のほぼ上限で撮像することができた。これにより、地球からkpc程度までの距離にある赤色超巨星光球面をALMAで観測できる目処がついた。 (3) 赤色超巨星 VY CMa ALMA科学観測: 2013年のVY CMa 321 GHzおよび658 GHzのALMA科学実証試験観測データを解析し、VY CMaの質量放出機構の研究を進めた。658 GHz連続波源の恒星位置付近における放射ピークの位置はVLBIメーザー観測で得られる星周ガスの力学中心(=恒星位置)から数十ミリ秒角ずれていることが分かり、連続波源のピークは恒星からの激しいジェット的な質量放出を反映しているのではないかと推察された。この研究で得られた成果をもとに、ALMA Cycle 6観測公募で20ミリ秒角の空間分解能によるVY CMaの観測提案を提出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1) ALMA技術試験の成功: 本研究で目標とする天体物理研究を推進するにあたって最も重要な技術開発項目であるALMA長基線サブミリ波観測試験が成功し、10ミリ秒角を切る角度分解能で天体の撮像が実証されたことにより、最大の難関が突破できた。この結果はALMAの技術的成果として報告するために論文を執筆している。また、平成30年4月のALMA Cycle 6観測公募において、最も激しい質量放出を起こすことで知られているVY CMaに対し、2013年のALMA科学実証試験観測データを利用した研究をベースにして、Cycle 6におけるALMA最高空間分解能を用いた観測提案を提出することができた。現時点では観測提案が採択されるかどうかは分からないが、提案が採択されてデータが得られれば赤色超巨星の質量放出に関して大きな知見が得られることが期待できる。 (2) VLBI観測研究の相対的遅延: VLBIによる赤色超巨星の星周ガスのメーザー観測研究がやや遅れており、すでに得られている観測データの解析とその結果の論文発表を急ぐ必要があると考えている。 (3) 赤色超巨星光度曲線の解析: 上記のように、赤色超巨星の電波~サブミリ波にかけての干渉計高空間分解能研究は進展を見せているが、一方で赤色超巨星の光度曲線の解析はほとんど進んでいない。近年、変光星の光度曲線に関して大型測光プロジェクトにおける大規模変光星データベースの構築により数日から1年程度の周期の光度曲線を持つ天体群では大きな進展を得られつつあるが、1000日程度の周期を持つ赤色超巨星はまだ十分なサンプルが得られていない。以上、(1)、(2)、(3)を総合して考えると、研究計画は科研費提案時よりは遅れがあると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) VLBI科学観測結果のまとめ: この2年間で得られた赤色超巨星VLBI観測データの解析を終了させ、結果の科学的考察を経て、投稿論文として成果報告を行う。特にS Perにおいては間欠的質量放出を実証するに十分なモニタデータが集積されており、S Perに関して「間欠的質量放出」仮説の実証する。 (2) ALMA高分解能技術実証: 昨年度のALMA高周波数・長基線観測キャンペーンにおける高空間分解能観測の技術実証は成功裡に終了し、現在、技術論文として成果をまとめている。この論文を平成30年度前半には投稿し、銀河系内の赤色巨星・超巨星の観測実現性に対する技術検証を終了する。 (3) ALMA高空間分解能赤色超巨星科学観測: 2013年のVY CMa ALMA科学実証試験観測から、VY CMaで起きている質量放出について「間欠的質量放出」の観点から新たな仮説を提唱できる見込みがたちつつあり、この仮説を投稿論文として平成30年度後半までにまとめて投稿する。本科研費基盤研究(C)の期間内では、VY CMaのALMA Cycle 6観測の実行は採択されたとしても実行されることはないが(早くても2019年中旬)、得られた場合に即時に結果に対して科学的考察を進展させ論文発表ができるよう上記論文作成を通して次期赤色超巨星研究計画の準備を進めておく。
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Causes of Carryover |
平成29年度に出席した国際研究会(IAUS 336)の旅費が想定よりも高くなり、残額を考えて日本天文学会年会での発表を諦めたため、結果として172,558円を次年度で利用することとした。この次年度使用額はチリからの海外出張として利用する計画を立てている。
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Research Products
(10 results)