2017 Fiscal Year Research-status Report
LHCでの光子-光子衝突過程による標準模型を越える 物理の研究
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16K05314
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
曹 基哲 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10323859)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | レプトン・フレーバーの破れ / ダークフォトン / 前方検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 前年度に引き続き、e+ e-コライダーにおけるレプトン・フレーバーの破れ(LFV)の検証可能性に関する研究を引き続き推進した。前年度に得られた成果に基づき、LFVを起こす4体フェルミ相互作用において、終状態がe+ tau-となる場合について、より詳細な検討を行った。LFV結合定数に対して以前のBファクトリ実験で得られた制限に対する本研究の有意性を示すため、シグナル過程に対する、背景(BG)過程の影響を減らすための方法を検出器シミュレーションのレベルまで含めて検討した。その結果、終状態レプトン達の4元運動量で定義されるtransverse massという運動学変数分布がシグナルとBGを分離するのに効果的であることがわかった。更に始状態電子・陽電子の偏極もBG過程を減らすのに有効であることも指摘し、LFV結合定数に対するe+ e-コライダー実験の感度のBファクトリ実験に対する優位性を衝突エネルギーの違い(250 GeV, 500 GeV, 1 TeV)毎に明らかにした。
(2) 暗黒物質を含む、標準模型とは直接相互作用しない、いわゆる「ダークセクター」と標準模型を媒介する粒子の可能性としてダークセクターのU(1)ゲージボソンであるダークフォトンがあげられる。このダークフォトンのLHCにおける生成崩壊を検証する可能性として前方検出器を用いることの優位性について研究を行った。LHCでの陽子・陽子衝突において片方の陽子から放出された光子と別の陽子内パートンとの衝突によってダークフォトンが生成され、それがレプトン対に崩壊する過程に注目した。通常の陽子対衝突によるダークフォトン生成が強い相互作用で起きることに比べて、本過程は電磁相互作用によっておきるためイベント生成率が相対的に低く、模型のパラメータ領域に対して他の過程で得られている以上の新たな制限は得られないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 実験で観測可能なレプトン・フレーバーの破れはニュートリノの質量以外に、別の起源が必要である。一般に実験のエネルギースケールよりも大きな質量を持つ粒子によって媒介される過程は4体フェルミ相互作用となるため、本研究では特定の模型に依ること無く、LFV結合定数に対する電子・陽電子コライダーからの制限を評価した。特に背景事象の影響を減らす手法の開発は、本研究課題に遂行において重要な位置を占めており、今回の研究で終状態レプトンのtransverse mass分布が信号事象、背景事象の分離に有用であることを指摘したのは大変有意義であった。
(2) ダークフォトンのコライダー実験における探索可能性は従来、電子・陽電子コライダーやLHCを舞台に研究されてきた。特にLHCでは陽子中のパートン(クォーク、グルーオン)同士の衝突によるダークフォトンの生成可能性が議論されてきた。本研究で前方検出器を用いた場合のダークフォトン探索可能性について研究したことは、それら従来の研究と一線を画すものである。始状態が(一方の陽子が放出した)光子ともう一方の陽子中のパートンとの衝突であることを明確にし、パートン同士の衝突過程と分離するためには前方検出器で光子を放出した陽子を検出することが必須である。本研究でそのような始状態の分離を行うためのモンテカルロ・シミュレーションの枠組みを一通り構築できたことは本研究課題を推進していく上で重要な進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) レプトン・フレーバーを破る相互作用のコライダー実験における検証可能性を引き続き調べる。将来計画として検討されている様々なタイプの加速器実験の特徴を考慮し、その優位性を検討する。
(2) コライダー実験での探索対象となる、暗黒物質の起源を説明する模型を構築し、コライダーにおける現象論的帰結を調べる。標準模型の最小限度の拡張として、ヒッグス・セクターに複素スカラー一重項を加えた模型を調べる。複素スカラー場にソフトに破れたグローバルU(1)対称性を課し、ヒッグス・セクターにCP不変性を要請した場合に、複素スカラー場の虚数部分がCP対称性によって安定な暗黒物質となること、これが直接探索実験とよばれる、暗黒物質と原子核の散乱実験からの制限を満たすための条件としてCP偶のヒッグス粒子2つが縮退した質量を持つことが一般的な帰結であることをすでに見出している。このような縮退したスカラー粒子の加速器実験における探索可能性を吟味する。
(3) 暗黒物質を含むように、標準模型を最小限度拡張した模型におけるゲージ結合定数の統一と陽子崩壊に関する帰結について検討する。標準模型の拡張方法としてSU(2)ゲージ群の非自明な表現を加えた場合、その表現の質量スケールによって3つのゲージ結合定数の統一が達成される場合がある。その表現が暗黒物質を含むための条件、陽子崩壊実験からの制限を満たすための条件などを調べ、実験データに基づく模型の検証可能性について調べる。
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