2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K05320
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
青木 保道 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特任准教授 (20292500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 新物理探索 / 中間子 / 核子 / 格子ゲージ理論 / 陽子崩壊 / 複合ヒッグス模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では極微な世界を記述する新物理法則の探索を核子や中間子をプローブとして行う事を目標に、その理論計算の精度向上を目指している。格子ゲージ理論に基づく数値計算が現状で唯一の方法であるが、その精度向上のために、新しい計算技術の応用と新規開発を行いつつキーとなる物理量の計算を行う。 新物理の決定的証拠となる陽子崩壊事象をとらえようとする観測実験により寿命の下限の更新が進んでいる。本課題では、観測実験の結果から新物理候補理論の制限を行う橋渡しとなる陽子崩壊QCD行列要素の計算を行っている。従来の計算では統計精度に改良の余地があったが、AMA(All-Mode Averaging)の適用により大幅な誤差縮小を実現した。まだ現実のud クォーク質量より重い点の数値計算からの外挿であるが、技術の有効性に目処がたち(論文投稿中)、今後の物理質量直上の計算への応用に期待が持てる結果である。 新物理法則の候補となる強結合理論(Large-Nf QCD)の解析では、8フレーバーQCD理論の格子計算を行い、その理論でヒッグス粒子の候補となるフレーバー一重項スカラー(σ)の質量等の計算を行った。ここではσは新素粒子のフェルミオンとその反粒子の複合粒子として記述される。現実世界のσの計算は格子QCDの難問として知られており、その原因の一つに統計精度を出すのが困難な量であることが挙げられる。ここでは使用する格子作用の対称性を用いた分散縮小法によりシグナルを得ることに成功している。結果として、通常のQCDでは考えられない低質量が実現されていることが確認できた(核子的な状態をはじめ、その他の複合粒子の質量と共にまとめ論文投稿中)。実験で確認されたヒッグス粒子の質量は125GeVと、一般的に複合模型では相当小さいが、この模型ではその実現可能性があり、更なる追求に期待が持たれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この課題で応用/開発する新技術として (i) 分散縮小法、(ii) AMA、(iii) 変分法と相関行列、(iv) Yang-Mils勾配流をあげている。4点ののうち2点(i),(ii)については実績概要に述べたように成功している。残りのうちYang-Mils勾配流の応用については、Large-Nf QCDでテストを行っており、特にフレーバー一重項擬スカラー(通常のQCDではη')質量の測定で顕著な成果を上げつつある。また、σの解析では、特に真空の寄与の相殺が重要で統計的に困難な問題であるが、これを新たな分散縮小法により改善するアイデアをテストしている。成功すれば一段の精度向上に繋がる可能性がある。これらとその他のスペクトラムとの比較から近似的スケール不変かつカイラル対称性が自発的に破れた新奇な非摂動論的動力学の端緒が見えつつあり、今後の進展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
まず新技術の応用に目処が立っている陽子崩壊行列要素の物理点直上の計算を進める。ある種のモデル計算では非物理的な比較的大きなudクォーク質量から物理点へ近づけることにより大幅な減少が予想されている。このことは、従来物理点直上の計算の遂行により、現状では大きな質量からの多項式による外挿に頼っているために排除し切れていないこの可能性の成否に決着をつける上できわめて重要な意味がある。 Large-Nf QCDでは、η'とσの質量の計算を軸に新技術の開発を進めながら新奇な動力学の解明を進めていく。また、現象論的に重要なPeskin-Takeuchi S パラメタの計算も進めている。ここでは、有限体積効果の制御が主要課題であることが分かってきた。従前の別グループの計算で、カイラル極限でのSパラメタの減少はサイズ効果を見ていたためだった可能性があり、この重要な系統誤差の正しい評価と可能ならば除去を目指して計算を進めていく。
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Causes of Carryover |
研究代表者の移動による雇用条件の変更で、本人の旅費としての執行が困難になったことで旅費の支出が大幅に減った。また、計画していた大型計算機使用料は別途共同研究からのサポートが得られて支出が減った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大型計算機で生成した膨大なデータの内、重要なものについて手元に置いてワークステーションから高速アクセスが可能なストレージ購入費用として充てる予定である。
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