2017 Fiscal Year Research-status Report
超高温・高密度物質におけるエントロピー生成の機構と動的性質の解明
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16K05350
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
國廣 悌二 京都大学, 理学研究科, 教授 (20153314)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
高橋 徹 群馬工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70467405)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 伏見関数 / エントロピー生成 / 量子色力学 / 熱化 / コルモゴロフ-シナイエントロピー / リャプーノフ指数 |
Outline of Annual Research Achievements |
高エネルギー重イオン衝突の現実的な初期状態をよく記述するマクレラン-ヴェヌゴパラン模型を静的な設定に焼きなおす近似の下、半古典近似の範囲で量子色力学に基づくヤン・ミルズ場の時間発展を計算し、量子分布関数であるウィグナー関数を粗視化して得られるグルーオン系の伏見関数をまず求めることに成功した。 伏見関数の正定値性に基づきエントロピーにあたる量(伏見-Wehrlエントロピー:H-Wエントロピー)の時間発展を計算した。その結果、エントロピーが実際に生成されること、その生成の起源はヤン・ミルズ系の固有の非線形ダイナミクスを起源とするカオス性とともに、重イオン衝突特有の初期配意の持つ不安定性によることが明らかになった。 さらに、このように得られるエントロピーがほとんど飽和し流体力学領域に達する時間は1fm/c程度であり、実験の示す「早期熱化」と整合的である。また、この時間は正のリャプーノフ指数の和として得られるコルモゴロフ-シナイいエントロピー生成率と定量的に対応することも判明した。 さらに、他のグループが熱化の指標として使っている圧力の等方化も容易に解析を行うことができた。その結果、「等方化」が示唆する緩和時間もエントロピーから得られた上記熱化時間と定量的に整合的であることが判明した。 なお、技術的には、膨大な場の位相空間に亘る数値積分を必要とするため、分布関数を各自由度についての分布関数の積で近似する取扱いを行った。この簡便法はカオス性を示す少数量子系のH-Wエントロピーの計算でテストしたところ、系統的に110パーセント程度過剰評価するだけであることが確認できている。 以上の結果はProg.Theo. Exp. Physicsに発表、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高エネルギー重イオン衝突の現実的な初期条件を近似した設定で、量子色力学を半古典近似で解き、伏見関数を活用してエントロピー生成、圧力の等方化等を系統的に解析し、重イオン衝突で示唆されている「早い熱化」が理解できるか、という当初掲げた課題に対して、具体的な解析を進めることができ、世界の他のグループが成しえていない系統的な研究を行い、論文として発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
実際の重イオン衝突では衝突後、系は(ほとんど)光速で膨張していく。現在の計算はこの膨張の幾何学的な条件を取り入れていないので、この幾何学的な条件を顕に取り入れたマクレラン-ヴェヌゴパァン模型を初期条件として設定して伏見関数を用いて「早期熱化」の問題を解析する。 また。分布関数による粗視化だけでなく、デコヒーレンスのような他の粗視化の機構を取り入れて「早期熱化」の問題を解析し、分布関数を用いた結果と比較し、議論する。
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Causes of Carryover |
分担者との予定されていたミーティングの回数が少なく、群馬からの旅費使用が少なくなった。 次年度は最終年度であり、5月の国際会議および7月の国際会議を含むいくつかの国際会議での研究成果の発表を予定しており、それに使用される。
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