2017 Fiscal Year Research-status Report
多重ノックアウト反応で解き明かす原子核の独立粒子描像の崩れと多核子相関の全貌
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16K05352
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
緒方 一介 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (50346764)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多核子相関 / ノックアウト反応 / 2核子相関 / 独立粒子描像 / S因子 / 歪曲波インパルス近似 / αクラスター / 微視的反応論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、天然に存在しない原子核(不安定核)も含め、原子核の1核子構造(独立粒子描像)について系統的な分析を進めるとともに、一部の原子核内で発達することが予想されているαクラスター構造(ヘリウム4原子核の塊が原子核の構成粒子としてふるまう構造)の実証に取り組んだ。 原子核の独立粒子描像については、平成28年度に開発した計算コードを用いて、大阪大学核物理研究センターならびに理化学研究所のRIBFにおいて取得された実験データの解析に協力し、不安定核と安定核で独立粒子描像の崩れはほぼ一定であることを示した。これは、ミシガン州立大学(MSU)のグループが先行して発表していた知見を明確に否定する結果である。MSUグループの実験解析に用いられている核反応モデルの問題点(研究代表者らによる学術論文で指摘済)とあわせて考えれば、独立粒子描像の崩れの普遍性が、今回、信頼性の高い実験と理論の連携によってはじめて示されたと考えられる。また、象徴的な中性子過剰核であるニッケル78の魔法数や、フッ素同位体を用いたテンソル相関の研究などにも、本研究課題で開発された計算コードが活用されている。 一方、原子核のαクラスター構造については、反対称化による影響が少ない原子核表面に発達しているα粒子こそが、クラスター構造の発達度の指標として用いるべきものであるという提言を行い、αノックアウト反応の観測データと原子核のクラスター構造をつなぐ新たな指標(masking関数)を定義した。 これらの他、3体反応の厳密解であるファデーエフ理論との比較を通じて反応模型の信頼性を確認し、また、原子核に深く束縛した核子のノックアウト反応によって、3核子力効果を実証する可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
原子核の独立粒子描像の崩れが安定核・不安定核によらず普遍的であることを、実験グループとの連携によって明確に示したことは、本研究課題の主目的の1つであり、これを達成できたことは極めて重要であると考えられる。 αクラスター構造(α相関)についても、観測量との関係を明示し、本研究課題で取り組むべき課題は達成されたと考えられる。 3体厳密反応理論との比較や、3核子力効果(3対相関の一種)について実証の可能性を提言できたことも、当初の想定を超えて得られた重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は2核子相関に焦点を絞って研究を進める。 研究は2つの方針に沿って推進する。1つは、1核子ノックアウト反応を用いて、たたき出された核子が原子核内で他の核子と相関していた情報を引き出すというものである。手始めに原子核表面で相関している陽子・中性子対について研究を行う。もう1つは、相関と無関係な2つの核子が放出される反応を記述するための、多段階過程への拡張である。中間状態における核子の伝播を表すグリーン関数に対してアイコナール近似を適用することで、平明な描像を保持したまま、2段階ノックアウト反応の記述を行う。
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Causes of Carryover |
平成29年度は国際会議が1件のみであり、相対的に財源に余裕があった。平成30年度は国際会議が3件予定されており、平成29年度に未使用となった助成金を充ててこれらへの参加を計画している。
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