2016 Fiscal Year Research-status Report
ブラックホール時空におけるスピン粒子の軌道変化の研究
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16K05356
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
佐合 紀親 九州大学, 基幹教育院, 助教 (50540291)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ブラックホール摂動法 / 重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、相対論的連星の運動とそれに伴う重力波輻射の影響をブラックホール摂動法を用いて明らかにすることである。そのために、以下の手順で計算を行う。(1)まず、ブラックホール時空に重力場摂動がない場合の粒子の軌道を計算する。(2)次に、得られた軌道を基に、重力場摂動方程式の源項となるエネルギー運動量テンソルを導出する。(3)グリーン関数法を用いて摂動方程式を解き、重力場摂動を求める。(4)重力場摂動の情報から重力波輻射を計算する。過去の研究では、運動する粒子を内部構造の影響を無視した質点近似の下で、上記手順を実行する専用の計算コードを作成し、運動パラメータの永年変化の公式を導出した。本研究では、これをスピン粒子の場合に拡張し、軌道や放出される重力波にスピンが及ぼす影響を評価することを目指す。
平成28年度は、質点近似の下で構築した計算コードをスピン粒子の場合に拡張するため、以下の変更をして計算コードの再構築に取り組んだ:(i)スピン粒子の運動方程式としてPapapetrou方程式を導入、(ii)摂動方程式の源項にスピンに起因する部分を追加。まず、試験的に、もっとも簡単な系(赤道面円軌道、中心ブラックホールと粒子のスピンの向きが揃っている場合)に注目して、重力波による無限遠方へのエネルギー放出量を計算した。得られた結果について、既に知られているポストニュートン3.5次精度の結果と一致していることを確認し、さらに6次精度の結果を得ることに成功した。加えて、過去の計算では考慮されていなかったブラックホールに吸収されるエネルギーについても評価した。また、粒子スピンの重力波への影響を見積もるため、粒子の軌道位相に注目し、スピンによる補正を評価した。その結果、ポストニュートン4次以上のスピン補正は宇宙重力波観測器LISAが想定する観測にあまり影響しないという見積もりを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の目標は、質点近似の下で構築した計算コードをスピン粒子の場合に拡張することであった。そのため、粒子の記述を測地線方程式からPapapetrou方程式へ変更する、重力場摂動の源項にスピン項を加える、等の修正を加えたコードを作成し、赤道面円軌道、スピンの向きが揃っている場合に対して、重力波放出によるエネルギー損失等へのスピン補正を評価することに成功した。このことから、現在の達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より一般的な系について重力波輻射による影響を評価する。特に、中心ブラックホールと粒子のスピンの方向にずれがある場合、歳差運動が生じるため粒子の軌道はより複雑になる。このような系のエネルギー損失量や運動量変化量を計算することで歳差運動が重力波輻射にどれぐらい影響を及ぼすかを評価する。また、これまでは、粒子の運動速度が光速に比べて十分に小さいと仮定し、ポストニュートン近似の下で解析的計算を行ってきた。この制限を取り除くため、今後、数値的に計算を行うための専用コードの開発を並行して進める。
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Causes of Carryover |
議論、情報交換のために参加を予定していた研究会とのスケジュール調整がつかず、参加を見送ったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連する他の研究会への参加、共同研究者の招聘等に充てる。
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