2018 Fiscal Year Research-status Report
ニュートリノ崩壊光子検出器較正用超低エネルギー光子パルス照射システムの開発
Project/Area Number |
16K05375
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
吉田 拓生 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (30220651)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 物理学 / 素粒子実験 / ニュートリノ / 遠赤外線 / レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ニュートリノに質量があることが確定し、質量の大きいニュートリノが10~25meV(波長50~90μm)程度の遠赤外線領域の低エネルギー光子を放出することによって質量の小さいニュートリノに崩壊することが理論的に予言されており、そのような光子を探索するための検出器開発が推進されている。本研究の目的は、福井大学の「遠赤外分子レーザー装置」を用いて、そのような検出器を較正するための「超低エネルギー光子パルス照射システム」を開発することである。目的達成に向けて、今年度は以下のような研究を行った。 ①ニュートリノ崩壊光子検出器の中でニュートリノ崩壊光子を分光するために用いる回折格子の性能評価を行うために、遠赤外線用回折格子の回折角や回折効率を波長40~90μmの範囲で測定し、理論値との比較を行った。測定結果は、米国Synopsys社製の回折格子シミュレーター DiffractMODによる理論計算の結果にほぼ一致し、検出器内に設置する分光器の設計は、このシミュレーターを用いて行えることが確認できた。 ②ニュートリノ崩壊光子検出器の中で高感度な受光素子として「超伝導トンネル接合素子検出器(STJ検出器)」を用いる予定であるが、この受光素子の較正や性能評価を行うためには遠赤外分子レーザーが発振する連続波をパルス化する必要があり、このために、昨年度から引き続き、高速回転ミラーを用いた光学系の設計・製作を行った。特に、レーザー光に対する光学系を設計する際、従来の近軸近似を用いた設計手法ではなく、波動方程式の厳密解に基づく手法を取り入れたところ、設計の精度が飛躍的に向上し、得られるパルス時間幅などが実測値をよく再現するようになった。この手法で設計・製作した光学系の性能評価を行ったところ、パルス時間幅の実測値をSTJ検出器の応答速度とはぼ同じ2μsまで縮めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまで当初の研究計画どおり、遠赤外分子レーザーの稼働、発振線の確認、その基本特性の測定、連続波のパルス波への変換、その光子パルスを検出器まで伝送するための導波管の開発、この光子パルスを用いて検出器の較正や性能評価を行うときに必要となるトリガー信号の作製、などを順調に遂行してきた。本研究の当初計画の中でまだ取り組んでいない唯一の課題は、遠赤外線用の光減衰器(attenuator)の準備である。本研究で開発する光子パルス照射システムを用いて較正しようとしている光子検出器は、ニュートリノの崩壊に伴って1個だけ放出される光子を確実に検出する必要があるため、その較正を行う際には、適当な光減衰器を用いて1パルス中に含まれる光子の数を平均1~数個程度になるように制御する必要がある。次年度以降、このような光減衰器の開発にも鋭意取り組んでいきたいと考えている。一方、今年度は当初の計画を越え、ニュートリノ崩壊光子検出器の中でニュートリノ崩壊光子を分光するために必要となる「分光器」の開発のためにも貢献することができ、目下、これが次年度以降の新たな課題の芽となりつつある。 以上のような状況を総合して、「本研究は、おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ニュートリノ崩壊光子検出器は、入射窓から入った遠赤外領域の光子を回折格子で分光し、波長によって異なる位置に集光することができるようになった分光器の部分と、集光された光子を検出し、その集光位置から波長を求めることができるようになったピクセル状の高感度な受光素子(超伝導トンネル接合素子)とで構成されている。これまで本研究では、この検出器を較正するための光子パルス照射システムを開発するべく、上記「現在までの進捗状況」の節で述べたような課題に取り組んできた。 今後は、まず、今年度に行った回折格子の性能評価実験の結果に基づき、改良型の回折格子を設計・製作し、その性能評価を行いたい。また、「現在までの進捗状況」の節にも書いたように、実際にニュートリノ崩壊光子検出器の較正や性能評価を行う際には、光減衰器を用いて一つの光子パルス中に含まれる光子の数を平均1~数個程度になるように制御する必要があるが、そのような目的で用いることができる光学窓の開発も行う予定である。更に、ニュートリノ崩壊光子検出器には、我々の観測したい波長領域の光子だけを通過させ、それ以外の光子を極力排除するバンドパスフィルターの役割を果たす光学窓あるいは反射板も必要となるため、上述の光減衰器開発の延長線上の研究課題として、そのようなバンドパスフィルターの開発も行いたい。さらに、以上の課題と並行して、本研究で用いる遠赤外分子レーザーの発振出力やビーム形状の時間変動をリアルタイムでモニターできるような装置の開発も行いたい。これは、これまでこのレーザー装置を用いて実験を行う際、その発振出力やビーム形状を把握するのに時間がかかり、不便であったからである。また、遠赤外分子レーザーの新しい発振線の探索や、新しい出力鏡の開発など、このレーザー装置自体の性能向上のための研究も行いたい。
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[Presentation] COBAND実験のための光学系設計開発II2019
Author(s)
髙橋光太郎, 金信弘, 武内勇司, 飯田崇史, 武政健一, 浅野千紗, 吉田拓生, 西村航, 鈴木健吾, 浅胡武志, 竹下勉, 古屋岳, 松浦周二, 橋本遼, 岡島茂樹, 中山和也, 他
Organizer
日本物理学会第74回年次大会
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[Presentation] Development of Superconducting Tunnel Junction Far-Infrared Photon Detector for Cosmic Background Neutrino Decay Search - COBAND experiment2018
Author(s)
S.H. Kim, Y. Takeuchi, T. IIda, K. Takemasa, C. Asano, R. Wakasa, S. Matsuura, Y. Arai, T. Yoshida, T. Nakamura, M. Sakai, W. Nishimura, M. Ukibe, E. Ramberg, S.B. Kim et al.
Organizer
XXXIX International Conference on High Energy Physics (ICHEP 2018)
Int'l Joint Research
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[Presentation] 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索COBAND実験2018
Author(s)
金信弘, 武内勇司, 武政健一, 若狭玲那, 浅野千沙, 飯田崇史, 松浦周二, 吉田拓生, 坂井誠, 中村昂弘, 西村航, Paul Rubinov, Dmitri Sergatskov, Soo-Bong Kim, 他
Organizer
観測ロケットシンポジウム(JAXA)
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[Presentation] COBAND実験のためのSTJ検出器性能評価用光学系の設計Ⅱ2018
Author(s)
西村航, 鈴木健吾, 浅胡武志, 竹下勉, 吉田拓生, 岡島茂樹, 中山和也, 金信弘, 武内勇司, 飯田崇史, 武政健一, 浅野千紗, 笠島誠嘉, 小川勇,古屋岳, 加藤幸弘
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会
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[Presentation] ニュートリノ崩壊光子検出器較正用遠赤外分子レーザーのビーム形状モニター2018
Author(s)
竹下 勉, 西村 航, 鈴木健吾, 浅胡武志, 吉田拓生, 岡島茂樹, 中山和也, 小川 勇, 古谷 岳, 金信弘, 武内勇司, 飯田崇史, 髙橋光太郎
Organizer
2018年度日本物理学会北陸支部 定例学術講演会
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