2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05397
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石川 忠彦 東京工業大学, 理学院, 助教 (70313327)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光誘起相転移 / 分子性導体 / スピンクロスオーバー現象 / 光誘起ダイナミクス / 電荷整列 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、光励起による相転移制御を基盤とした光機能素子の開発を目標に見据え、分子性導体薄片試料を対象とし、電子構造変化ダイナミクスの観測および、そのメカニズムの解明を目指している。この目的のため、主に応力印加を用いた室温での相転移現象に絡んだ電子構造解明を平成28年度の実施計画とした。具体的には、応力印加の基での精密分光測定を行うための応力変調分光測定装置の設計及び作製を行い、その装置を用いた物性測定の開始を主な目標とした。 当初計画通り、応力印加装置の設計作成を進め、試作機を完成するところまで至ったが、完成した装置では、応力印加機構の動作距離などの点で、問題がある事が認識され、現在、再設計をしている最中である。 これとは別に、既存の測定装置を用いた光誘起ダイナミクスの測定も平行して進めた。継続して研究を進めている物質群(Pt(dmit)2系)の光誘起ダイナミクスの解明、および、上記応力印加装置を用いた測定の対象物質の開拓を目指した研究である。 前者については、Me4P[Pt(dmit)2]2の光誘起ダイナミクスについて、分子内振動スペクトル領域など、これまで注目して来なかったスペクトル変化の精密測定により、光励起後の複数種緩和過程の同定や、その相転移メカニズムにおける役割を明確にする事に成功した。 また、当初計画には入れていなかったが、共同研究としてスピンクロスオーバー現象を示す物質群の光物性測定を開始したところ、この物質群が、応力変調測定の研究対象として適している事がわかった為、こちらの物質の基礎物性の測定を年度後半に集中的に行った。これにより、光励起により、構造変化と磁性変化を絡めて、直接制御出来る可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画の通り、応力印加装置の設計作成を進め、試作機を完成するところまで、至ったが、完成した装置では、まだ当初見込み通りの応力印加をするには、応力印加機構の動作距離などの点で、問題がある事が認識され、現在、再設計をしている最中である。この点においては、本課題の進捗状況はやや遅れていると言える。 しかし一方で、当初計画に入れていなかったスピンクロスオーバー現象を示す物質群の基礎物性研究に大幅な進展があり、本課題の対象物質の探索が進んだといえる。特にこの物質群は、構造変形と含有する遷移金属錯体の示す磁性とが強く結合した系であり、応力変調測定が興味深い。 更に、この研究の進展により、既存の装置であった顕微分光装置の改良が必須となり、年度後半に集中的に行った。これにより装置の安定性や、光学系としての明るさなどが大幅に向上し、応力変調装置と組み合わせる事で、29年度以降の課題遂行に必ず役に立つと考える。 これら当初は29年度以降に想定していた課題を前倒しで行う形になった為、この点で、前者の遅れをカバーしていると考え、自己評価としては、おおむね順調に進展していると判断した。 また、当初計画で主な研究対象物質として想定していたMe4P[Pt(dmit)2]2の光誘起ダイナミクスについては、そのメカニズムの理解に進展が見られ、28年度の学会発表2回と、レビュー論文の出版に至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の研究計画の主な目標は、残念ながら、まだ達成できていない。従って、29年度は応力変調測定装置の完成に重点を置きたい。ここに28年度予算からの繰り越し額を重点的に費やす。28年度に問題となったのは、主に応力印加の為に使用するピエゾ振動子の能力不足であり、こちらについては、28年度中により高性能の素子の購入をしており、解決出来るものと考えている。 装置開発以外では、28年度に開始したスピンクロスオーバー現象を示す新規物質群について、光誘起現象の探索的研究も継続して行っていく。特に、応力変調において重要だと考えている薄片試料作製について重点を置き、進めて行きたい。平成28年度は、基礎物性の理解につとめ、光励起現象については、室温高温相での探索しか行ってこなかった。平成29年度は、相転移温度以下の低温相での光誘起現象探索を重点的に行う予定である。 更に幾つかの候補物質を検討中であり、新たな魅力的な光応答物質の精力的な探索と、その応力変調効果の探求も続けていく予定である。
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Causes of Carryover |
年度初頭に予定していなかった予算(学内)の獲得に成功し、そちらの予算で購入した分光器を本申請課題の遂行に使用できる目途が立った為、当初計画に比べて出費を抑える事が出来た。この為に、平成28年度予算を一部29年度に繰り越しをおこなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画に比べて、応力変調装置の製作において、想定よりも難航しており、応力変調装置の改良に繰り越し金額を充てたい。また、試料探索の過程で、共同研究先が増えて来ており、研究打ち合わせを綿密に行う必要性を感じており、その為の費用にも一部充てるつもりである。
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Research Products
(6 results)