2018 Fiscal Year Research-status Report
新規誘電体材料Snドープチタン酸ストロンチウムの強誘電性発現のメカニズム
Project/Area Number |
16K05398
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
阿部 浩二 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20183139)
|
Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
|
Keywords | 酸化物量子常誘電体 / 新規機能性材料 / 構造相転移 / 熱測定 / 光散乱分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
SrTiO3(STO)は非線形感受率が大きく、金属イオンのドープにより様々な物性を示す量子常誘電体である。本研究の対象物質Sn1-xSnx TiO3 (SSTO)はSnイオンのドープによる強誘電性の誘起と、それに伴う構造相転移の消滅が生ずるPbフリーの新規誘電体材料として注目されている。熱測定及び光散乱分光を用いて格子のダイナミクスの視点から強誘電相の出現と構造相転移の抑制メカニズムの解明を行った。 SSTOの強誘電的相転移温度Tcを誘電率の測定から、構造相転移温度Toは比熱の測定から求めた。相転移に因る比熱の異常はSrSnTiO3がSnドープにより不均質な系となったことによるリラクサー化のために熱異常が極めて小さく、本研究では強誘電相転移に伴う比熱の異常は観測されなかった。一方、R点でのR25モードの凍結に伴う構造相転移は僅かであるが再現性および信頼性のある熱異常を観測することができた。 散乱分光からはドープ量の増加に伴うリラクサー化、つまり系の不均一化のためにΓ点での赤外活性モードのソフト化は弱くなることが明らかとなった。結晶構造の観点から、SrO結合エネルギーに比べSnO結合エネルギーが大きく、SnドープによるTiO3八面体の回転に伴う格子変形が阻害され、八面体ネットワークの崩壊と局在化が原因となって構造相転移が抑制されることを明らかにした。 これらの熱測定の結果と格子振動の温度依存性、および結晶構造の観点からの考察により、SSTOのSnドープ量をパラメータとする常誘電、量子誘電、強誘電の相図を明らかにし、構造相転移の抑制メカニズムを解明することが出来た。この成果は、日本物理学会で2018年秋の物理学会(同志社大学京田辺キャンパス)で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比熱の異常が予想以上に小さく熱測定の信頼性と再現性を高めるために、異なるドープ量の試料の比熱の測定に多大な時間を必要とした。また、ラマン散乱の測定では、研究対象のSr1-xSnxTiO3(SSTO)試料がセラミックスであったため、20㎝-1(約600GHz)以下のスペクトルにおける弾性散乱成分を除去するための測定装置の改良に多くの時間を費やした。この2点のために、当初の計画であった参照物質Pb1-xSnxTiO3(PSTO)に関する測定にあまり時間を割くことができず両試料の比較を十分に行えなかった。 追加採択で研究期間が短かったにもかかわらず、SSTOに関しては、比熱の測定によるSSTOの相図が得られた。また、ソフトモードのソフト化の抑制および構造相転移の抑制メカニズムのモデルを作ることが出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
光散乱分光装置の改良が進み、意味のない弾性散乱成分の寄与を排除できるようになったことより、本研究で残されている計画の低波数域でのラマン散乱スペクトルの精密な測定により、赤外活性モードのソフト化のメカニズムを明らかにする。 日本物理学会で発表した構造相転移抑制モデルをジャーナルに投稿する予定であり、引き続き必要な測定と解析を行う。 光散乱スぺクトルの情報だけでは格子振動の解析が困難であることを認識するに至り、計算機によるフォノンの計算を取り入れ、測定したスペクトルの解析を計画している。これにより複雑なスペクトル形状の解析が進展すると期待できる。また、今後、この分野でのスペクトル解析の標準となる手法の開発につながると期待している。
|
Causes of Carryover |
科研費の採択が追加採択であったため、研究課題の研究のスタートが遅くなったこと。また比熱の測定が予想以上にシグナルが弱く測定時間が予定の3倍必要だったために、当初の計画を変更する必要があった。当初の計画を遂行するため、次年度へ科研費補助金(基金)の延長を行った。
|
Research Products
(2 results)