2016 Fiscal Year Research-status Report
薄膜中における励起子分子の輻射ダイナミクスと量子もつれ光子対生成の理論
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16K05403
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
安食 博志 東京電機大学, 理工学部, 教授 (60283735)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子もつれ光子対 / 励起子分子 / 励起子 / 量子井戸 |
Outline of Annual Research Achievements |
励起子分子が輻射崩壊したときの終状態は、「励起子+光子」、「励起子+表面ポラリトン」、「光子+表面ポラリトン」、「表面ポラリトン+表面ポラリトン」の4種類がある。この4種類の崩壊過程について、それぞれ遷移確率の膜厚依存性を計算した。また、これらの結果を総合して励起子分子の輻射寿命の膜厚依存性を求めた。励起子分子から表面ポラリトンを含む状態への遷移確率を計算するためには、表面ポラリトンに含まれる励起子成分と光子成分の割合を計算する必要がある。この計算は、2年前程前に報告者によって初めて行われた。 最近、励起子分子の輻射寿命の膜厚依存性は励起子の場合と正反対で、膜厚が大きくなると寿命が長くなることが実験で示された。励起子と光の相互作用が膜厚とともに大きくなることを考えると、この結果は矛盾しているように見える。今年度の研究では、励起子分子の輻射寿命の膜厚依存性が定性的に明らかにした。その鍵の1つは、励起子分子から「励起子+光子」への遷移確率に膜厚に反比例する因子が含まれることである。もう1つの鍵は、ある程度膜厚が大きくなると、表面ポラリトンを含む状態への遷移が膜厚とともに小さくなることである。ただし、励起子分子の輻射寿命の大きさは実験とかなり異なる。その原因の1つは、最低励起子準位しか考慮していなかったためと考えられる。高い励起子準位も含めた計算は、今後の課題である。 励起子分子の輻射崩壊過程において、量子もつれ光子対が生成されるのは「励起子+光子」へ輻射遷移する場合だけである。その他の輻射崩壊過程では表面ポラリトンが生じるが、この状態は薄膜の表面に局在しているため、特別な仕掛けをしない限りは薄膜から取り出すことはできない。それぞれの輻射崩壊過程について、遷移確率の膜厚依存性を調べた結果、膜厚が薄いほうが量子もつれ光子対を生成する割合(効率)が高いことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、励起子分子の4種類の輻射崩壊過程について、それぞれの遷移確率を膜厚の関数として計算することができた。また本研究により、実験で示されている励起子分子の輻射寿命に関する特異な膜厚依存性が理解できた。輻射寿命の大きさについては、定量的に満足すべき結果が得られていないが、最低励起子だけではなく、よりエネルギーが高い励起子についても考慮することにより、実験の値に近づくことが期待できる。以上の理由により、研究の達成度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
励起子分子の輻射寿命の膜厚依存性を定性的に理解することができたが、その値は実験値と大きく異なる。今後はエネルギーの高い励起子状態も考慮して励起子分子の輻射寿命を計算し、定量的にも満足すべき結果が得られるか調べる。そのためにはまず、複数の励起子状態を考慮した表面ポラリトンの分散関係と、そこに含まれる励起子成分と光子成分を明らかにする。得られた結果を用いて、4種類の励起子分子の輻射崩壊過程について、それぞれの遷移確率を求めし、励起子分子の輻射寿命を計算する。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも計算機の価格が低かったため。また、海外での研究発表を行わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外で研究発表を行うための旅費と計算機。
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Research Products
(3 results)