2017 Fiscal Year Research-status Report
λ型有機超伝導体の13C-NMRによる統一相図の決定と異常超伝導相の解明
Project/Area Number |
16K05427
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
河本 充司 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60251691)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 有機超伝導体 / 強相関電子系 / 反強磁性転移 / 核磁気共鳴 / 13C |
Outline of Annual Research Achievements |
申請課題の選択同位体置換による新奇超伝導相を持つlambda-(BETS)2GaCl4の13C-NMRを用いた研究で13Cという電子状態を調べる上で最適なプローブにより、過去の研究で明らかになっていなかった反強磁性揺らぎの存在やそのが抑制されてFermi液体状態へクロスオーバーする過程を発見し、さらに超伝導転移直上でSDW揺らぎによるものとおもわれる 1/T1T の増大を観測した。低磁場での超伝導状態の13C-NMRより超伝導が、d波シングレットで記述されることを明らかにした。 成果をすでに常伝導の結果は原著論文として公表しており、また超伝導状態も極低温での確認実験を待って論文として公開できる状態である。超伝導状態において、スピン磁化率の減少と1/T1のTのべき乗の温度変化が観測されており、比熱によりラインノードの存在と合わせ、スピンシングレットd波の超伝導の可能性が強く示唆される。 さらに、2次元電子系の面間の相互作用を遮断している絶縁層での69Gaの信号の検出に成功して、絶縁層での興味ある現象も見出している。 またGaCl4と同型構造で磁性イオンFeCl4に置換したlambda-(BEDT-TSF)2FeCl4の反強磁性転移を伴う金属-絶縁体転移のメカニズムを明らかにするために同型構造で全温度領域で絶縁体であるlambda-(BEDT-DTDSF)2FeCl4の反強磁性転移を57Feに同位体置換した試料を用いてメスバウワー測定を行いFeの内部磁場の温度変化を測定した。その結果、内部磁場がステップライクに変化する特異な現象を見出し、最初に有機分子上のπスピンとFeのdスピンが相互作用する反強磁性転移であることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非磁性イオン GaCl4 塩を含む物質の常圧の13C-NMR は計画通りに測定が終了し、いくつかはすでに論文として発表されている。超伝導塩においても北海道大学での測定可能な温度領域での測定は終了して、現在、さらに低温の機材をもつアメリカの研究機関と共同研究を行う予定で実験準備が進んでいる。またπ-d 相互作用が期待される FeCl4塩に関してもlambda-(STF)2FeCl4 については測定がほぼ終了し、またメスバウワー効果も終了している。当初の計画の半分以上をクリアしていると考えられるのでおおむね順調と判断できると考えている。しかし、当初の計画のあった lambda-(ET)2FeCl4 に関しては、電解合成の条件を検討して作製に努力しているが、まだ目的の結晶を得るに至っていない。これに関しては、電解合成において使用する溶媒の検討などが必要と考えている。 相図を走査する圧力の実験もすでにGaCl4塩では、大型の単結晶も得られており、一部の実験はすでにスタートしている。 また研究の過程においてGaCl(4-x)Br(x)塩の低温でもMI転移が超伝導メカニズムに重要な知見を与える可能性や、有機伝導体で初めて絶縁アニオン相でのNMRシグナルの検出など新しい方向性も見出いしている点は、計画以上の進展をしている評価できる部分もある。
|
Strategy for Future Research Activity |
lambda-(D)2GaCl4 塩の温度圧力相図の全容解明のため D=ET,STF,BETS塩それぞれの圧力下NMRを実施する。これにより、反強磁性絶縁相と超伝導相の関連性やBETS塩の常圧で発見された超伝導転移直上の磁気揺らぎの発達と超伝導の関係を明らかにする。また超伝導転移直上の磁気揺らぎは、Clを Brに部分置換したことにより発現する絶縁相と関連すると考えられる。そこで新たにClをBrに部分置換した 13C BETS分子も用いて単結晶を作成しNMRを実施する。 D=BETSの超伝導塩に関して希釈冷凍機で最低温まで超伝導状態のNMRシフト、スピン格子緩和率を測定しデータを完成させる。 D=ET塩の反強磁性状態を過去に詳細に研究されている磁性イオンを含む系のD=BETSのFeCl4 塩と比較検討するためにD=ET, GaCl4の反強磁性共鳴の測定を理研のグループと共同研究を行う。 現在、単結晶の作製に成功していないD=ET, FeCl4 の塩を電解質や電流値、使用溶媒の検討を行い作製を試みる。作製に成功した場合、基本物性を測定後、メスバウワー用の 57Fe置換試料を作成しFe磁性、13C置換 ET分子を用いてNMRを行いET上の磁性を微視的なプローブで観測する。
|
Causes of Carryover |
一部の消耗品の発注数量の関係で千円未満の少額が残ってしまったが、次年度の予算と合計し電子部品等の消耗品に使う予定である。
|
Research Products
(13 results)