2017 Fiscal Year Research-status Report
新アルゴリズムの変分モンテカルロ法によるモット物理が本質的な系の励起状態の研究
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16K05428
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
横山 寿敏 東北大学, 理学研究科, 助教 (60212304)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / モット物理 / 低エネルギー励起状態 / 高温超伝導 / 不純物効果 / 擬ギャップ / 回転対称性の破れ / 電荷密度波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主目的は、強相関(モット物理の)領域で、モットギャップを超える励起による金属化等機構を調べることである。しかしモット領域では、基底状態やギャップ以下の低励起状態が拮抗しており、これ自体が未解明である。まず低励起状態を調べる必要がある。均一ハバード模型にバンドくりこみ効果を導入した初年度までの研究で、反強磁性(AF)状態(と相分離)が強く安定化することが判った。そこで、昨年度は主としてAFおよび常磁性/正常(PM)状態に対し、銅酸化物に付随する乱れ(不純物ポテンシャルV)の影響を調べた。主な結果をまとめる。 (1)ポテンシャルが引力(V<0)の場合:-U<V<0(U:相互作用強度)ならば、UによりVはほぼ完全に遮蔽され、ポテンシャルの影響は受けない。一方、V<-Uの強い引力ポテンシャルがある場合、遮蔽効果が弱まり、ハーフフィリングではV~-Uで絶縁体-金属転移を起こし、状態が金属化する。ドープすると、V<-UでAF秩序の安定性が急激に弱まる。 (2)ポテンシャルが斥力(V>0)の場合:不純物濃度、ドープ率をそれぞれδi,δとしたとき、δi≧δ>0ならば、V/t(t:ホッピング積分)の増大に伴い、V~2tで金属-絶縁体転移を起こし、不純物によって系は絶縁体になる。δi>δの場合V>Uで再び金属になると予想される。(1),(2)の研究から、不純物誘起モット転移が初めて定量的に計算され、その機構が明らかになった。 また、引き続き均一系の基底状態や低励起状態の性質、特に重要な状態のポメランチュク不安定性(PI)について調べた。PMとd波超伝導(dSC)状態ではPIは存在しないが、AFおよび交替磁束(SF)状態では存在する。後者は擬ギャップ状態に擬定されており、最近の磁気トルクやARPESの測定で見出された回転対称性が擬ギャップ相のみで喪失する実験事実と整合している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主目的であるギャップを超えた励起の基礎となる、低エネルギー状態の研究は初年度に済ませる予定であった。しかし、上記実績の概要欄で述べたように、基底状態や低励起状態に対しバンドくりこみ効果や遮蔽効果を導入して丹念に計算すると、当初の予測や実験結果とはかなり異なった結果が得られた。実験との齟齬の原因を探る目的で、実験系で無視できない不純物ポテンシャルを加えた系の研究を進めた。その結果、これまで予想されてはいたが、具体的計算で示されていなかった「不純物誘起モット転移」を引力および斥力ポテンシャルの場合に発見するに至り、その周辺を詳しく調べることに多くの時間を費やした。ポテンシャルが強い場合(|V|>U)には、ハーフフィリングで絶縁体-金属転移が起こる。一方、或る程度の斥力ポテンシャルがあれば、ドープ系で金属絶縁体転移が起こる。その機構は直観的にも解り易いものであった。この発見は副産物ではあるが、主目的と同等の物理的重要性があると思われる。 一方、擬ギャップ(PG)相で回転対称性の破れが確認された最近の実験に関連し、低励起状態でのPIの有無を調べることが緊要な課題となった。そこで、変分モンテカルロ法によりPIを調べた。PG状態と擬定されるポケットフェルミ面が(π/2,π/2)周辺の有限域にあるAF(II-型AF)状態やSF状態ではPIが存在することが判った。一方、PM状態やdSC状態では存在しない。PIによる異方性(ネマティシティ)は最大でも10%程度で、エネルギー利得の微少な対称性の破れである。これより、PGの特徴は何らかのPG状態によってもたらされるが、回転対称性の破れはPIがPG状態のみに重畳して現れるためと解釈できる。 以上の発見により、昨年度は高エネルギー励起の研究の前提となる低励起状態の精査に時間を取られることになったが、それはそれで大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、対象とする系の低エネルギー状態の基礎的知識は未だ完全ではなく、特に擬ギャップ温度以下で生成するネマティック秩序や、より低温での電荷密度波(ボンド秩序波)も考慮する必要がある。これらの低エネルギー状態の研究はさらに進めてゆく予定である。 一方、或るモデルパラメーター値で特定の状態が実現していれば(つまり最適解として得られていれば)、その状態に対する高エネルギー励起状態の計算は可能である。現段階で最も問題が少ない場合は、不純物強度が弱い場合のハーフフィリングにおけるAF相および常磁性相からの励起状態である。この状態については当初の計画に則り、今年度から励起状態を調べてゆく。非ドープの銅酸化物(AF絶縁体)に対する光照射による金属化の光強度依存性の実験に対応させて、ハーフフィリングでの基底(または低エネルギー)状態と励起状態でのモット転移点の変化を明らかにしたい。 具体的には、AF秩序を除外した常磁性状態でのモット転移点Uc/tは調べられている。そこでモットギャップを超えた励起状態は、基底状態からダブロン数Dを故意に増加させた状態として得られる。或るD値(=De)以下のD値を取らない空間でUc/t値を決定し、そのDe依存性を明らかにする。これによって模型の変数(相互作用強度U/t、フラストレート強度t'/t)を決めた場合、金属化に必要な最低の光強度が決定できる。U/tやt'/t を変化させてDeとUc/tの関係を調べることにより、銅酸化物超伝導体の非ドープ物質の電子とホールドープ系の金属化光強度の違いを考察できるであろう。 まずこの場合の計算を入念に実行した上で、低エネルギー状態に対して得られてきた知見を基に、当初の研究計画に記した様々な計算を実行に移してゆきたい。
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Causes of Carryover |
(理由)昨年度予算で掲載料を支出する予定であった本論文2編(JPSJで10頁以上)の投稿が少し遅れ、今年度にずれ込んでしまった。また、昨年度末に2度千葉工大へ研究打ち合わせのために出張する予定であったが、急務が生じたため 本年度4、5月へと延期になった。以上のための経費を本年度に繰り越した。
(使用計画)昨年度から繰り越した経費(掲載料、旅費)は当初の目的通り使用し、残余があれば次に記す計算機購入費用の一部に充てる。計算機部品の価格が高騰したため、初年度に作成した数値計算用計算機の台数が当初の予定より少なくなっていた。今年度予算から不足部品を補填して一、二台を作成する予定である。その他は、当初の計画通り使用する予定である。
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Remarks |
最近の論文、解説リスト。
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