2018 Fiscal Year Research-status Report
2次元量子固体の構造操作による量子現象の発現と解明
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16K05432
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森下 將史 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90251032)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 丈夫 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (00206723)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子流体・量子固体 / ヘリウム / ディラク粒子系 / 1次元フェルミ流体 / 吸着構造 / domain wall / 水晶マイクロバランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子レベルで平坦なグラファイトの表面に吸着した単原子層ヘリウム薄膜は、ほぼ理想的な2次元系を与える。3Heを少量混入した4He単原子層固相薄膜で観測された温度の自乗に比例する異常な熱容量の解釈として、これまで、吸着構造のdomain wallのみが流動性をもち、3Heはこの中を運動するため1次元Fermi流体や2次元Dirac粒子として振る舞っている可能性を提案している。即ち、規則的な制限空間に閉じ込められた3Heが特異な振る舞いを示している可能性が高い。より直接的な観測として、動的応答測定による流動性の検証を試みている。 水晶振動子の先端にグラファイトを取り付け、ここにヘリウムを吸着させて、共鳴周波数や共鳴線幅の変化を観測する水晶マイクロバランス法と呼ばれる、微視的摩擦の研究手段として用いられている手法を用いている。グラファイト上4He単原子層膜は、10 K以上の高温からslipと呼ばれる、振動基盤から質量離脱した状態となっている。これは、低温で摩擦が減少することが原因である。ここから温度を下げていくと、6.2 nm-2 以下の面密度では、共鳴周波数等に大きな変化は現れないが、6.4 nm-2以上では、slipにより離脱していた4He薄膜の質量が振動子と再び結合し、さらに低温で再離脱する振る舞いが観測されている。固相領域のみで出現する質量再結合は、domain wall内部の流動性という仮説と一致するものである。一方、低温での再離脱については、依然としてその起源は不明であるが、振動子の振幅を大きくするほど、高い温度で質量離脱することが明らかとなった。これは、擾乱を与えるほど高温で低温相に移行することを示し、一見不可思議に見える振る舞いであるが、質量再離脱が振動により誘起されている現象であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4He固相薄膜のdomainlwall内のみが流動性を示し、そこに溶解した3Heが得意な振る舞いを示すとの仮説の立証のためには、まず、domain wallの流動性を示すことを直接的に観測することが必要となる。その一つの方法として動的応答測定が挙げられる。従来、動的応答測定は「ねじれ振り子」と呼ばれる手法が広く用いられてきたが、グラファイト上の流体相薄膜の超流動の観測も難しい状況であった。本研究では、微視的摩擦の研究に用いられる水晶マイクロバランス法と呼ばれる手法を用いた。音叉型水晶振動子先端にグラファイトを取り付け、そこにヘリウムを吸着させて共鳴周波数や共鳴線幅の変化を測定する手法である。幾つかの試作を経て実験装置を完成させ、面密度を変化させながら、広い温度領域に渡り温度掃引を行う実験により、上述のとおり、slipの抑制と解釈できる現象を観測した。slipによりグラファイト吸着基盤から質量離脱していたヘリウム薄膜が、その一部が超流動転移し、超流動の流路が基盤全体に及んだことによりslipに対して超流動対向流が生じたとの解釈である。これは、本研究の目的としていたdomain wallの超流動性を非常に強く示唆する結果であり、研究として非常に大きな進展があった。 一方、数10 mK領域で、ヘリウム薄膜が再びグラファイト吸着基盤から質量再離脱する現象が観測された。domain wall構造が消失してslipの抑制が効かなくなった、或いは、薄膜全体が融解し超流動状態になった、などの可能性も考えられるが、このような低温で吸着構造が変化することは考えにくい。この再離脱する現象については、その起源は不明であるが、特異な現象が幾つか観測されており、今後の詳細かつ注意深い調査が必要となるが、新奇かつ特異な現象の発見も大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
音叉型水晶発振器を用いた水晶マイクロバランス法測定において観測された、質量再離脱、再結合の現象について、面密度依存性や振幅依存性や3He不純物の影響などの詳細な調査を行う必要がある。詳細な測定を行うとともに、測定結果についてさらなる精査を行う。 面密度については今後十分にfine gridでの測定を行い、domain wall構造と本当に関係があるのか、striped domain wall構造とhoneycomb domain wall構造とで違いが現れるのか、不整合固相への明確な移行を捉えることができるのか、などの調査を行う。 低温での質量再離脱現象については、3Heを混入しての4He薄膜の熱容量測定では、同じ温度域で特に異常が観測されていない。3Heが不純物として状態の変化を阻害している可能性もある。質量再離脱には超流動やdomain wallの運動が関係している可能性が高いが、これらの現象には常流動成分としての振る舞いやpin止め効果を通じて、3He不純物が大きな影響を与える可能性もある。これまでの純粋な4Heだけでなく、少量の3Heを混入してのQCM測定を行うことが、質量再離脱の起源を探る上で急務であり、最優先で行う。 低温での質量再離脱については、強い振幅依存性も観測されている。大振幅ほど高温で再離脱を生ずるが、これは質量再離脱が振動により誘起されていることを示している。さらには振幅により、ヒステリシスを示すような現象も観測されている。振幅依存性やヒステリシスについて詳細な情報を得ることが、低温での離脱の起源を探る上でも重要となる。
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Causes of Carryover |
昨年度に当初の想定以上の研究進展があり、緊急に追加の実験を実施する必要が生じ、予定していた国際会議の参加を見送った。補助事業期間を延長し、来年度に改めて国際会議での成果報告と、論文投稿を行うこととしたい。
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