2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05433
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
谷口 弘三 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50323374)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 有機伝導体 / 磁性 / 磁気構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、有機導体の磁性状態をミクロなプローブであるミュオンスピン回転緩和法により調査するものである。その際、試料を重水素化し、電子系からの寄与をより抽出しやすくするという手法により研究を推し進める。この年度の研究において、有機導体の磁性研究に非常に大きな進展があった。これは、ミュウオン実験ではないものの、ミュオン実験に対して決定的に重要な成果である。それは、一つの重要な有機反強磁性体のゼロ磁場スピン構造を磁化測定と数値計算により決定したというものである。この成果は、日本物理学会の欧文誌に掲載され、Editor's Choiceにも選定され、高く評価された。論文掲載は30年度にずれこんでしまったものの、この研究自体は29年度に行ったものである。層状有機反強磁性体では、中性子回折実験が困難であるという事情から、ゼロ磁場磁気構造を決定することが困難である。したがって、非常に多くの研究例があるにもかかわらず、基本的な物性がわかっていないといういびつな状態が継続していた。このような状況で、我々は、詳細な磁化測定と過去の知見を総結集した考察により、ついにこのゼロ磁場磁気構造を突き止めた。また、同時に、これまで観測されていた磁化のとびが、磁性分野の常識で推測される古典的なスピンフロップ現象ではなく、スピンの反転現象であることも明らかにした。さらに、この事実から、ミュウオン実験を再度行い、重要な知見も得られた。ゼロ磁場磁気構造が判明したことにより、ミュウオン実験の解析も飛躍的に進歩したわけである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ミュウオン実験の解析に対して、極めて重要な情報が、平行して行っていた詳細な磁化測定の研究から得られ、このことから、ミュウオン実験の解析が飛躍的に進歩すると考えられる。なお、この磁化測定の成果を投稿した論文は、日本物理学会欧文誌(JPSJ)のEditor's Choiceに選ばれ、高く評価されている。また、この物質の類縁体でも実験が進んでおり、現時点においても、この類縁体が磁気構造が異なるという驚くべき事実も判明している。この事実をつかんだこともミュウオン実験にとっては重要であり、実際に、これら二つの物質のミュウオン実験で興味深い結果が得られている。これらの成果は論文にして4本程度になるような内容を含んでいるので、最終的なつめの実験を行えば、多くの論文発表が早期に期待できる。したがって、現状では、予想以上に計画が進展しているとみなせる。また、ミュウオン実験ではないが、関連物質の研究で、10/7に「電子のスピンが量子液体状態にある特異な金属の発見-結晶中で独立に振る舞う電荷とスピン」という成果のプレスリリースを行っている。共同研究においても、顕著な成果がでている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた多くの成果は、ストーリーの基本的な骨格は完成しており、少しの追加的な実験や解析を行えば、すぐにでも論文発表ができる完成度に至っている。しかし、磁化測定装置の故障などがあり、このつめの実験が少しだけ遅れている。このような状況も、早期に解決されると期待されるので、できるだけ早く、成果発表を行いたい。まずは、次回の日本物理学会で、埼玉大学のメンバーだけでも5件の発表を行う予定である。また、論文発表も4本ぐらいの内容があるので、できるだけ急ぎたい。
|
Causes of Carryover |
薬品などの必要性が予測される消耗品の購入が、次年度に確実に増えると考えられたので、少しではあるが、繰越することにした。
|
Research Products
(9 results)