2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K05435
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
町田 洋 東京工業大学, 理学院, 助教 (40514740)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フォノン熱輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
絶縁体の低温における熱電現象を明らかにすべく、昨年度から絶縁体の黒リンを対象にその熱輸送特性に関する研究を行ってきた。その過程で同物質の低温における熱伝導率に奇妙な振る舞いを見出した。 絶縁体における熱伝導は、原子の集団振動をフォノンと呼ばれる粒子として捉え、それらが温度勾配下で熱を運ぶという気体分子運動論に基いた描像で理解される。このときフォノン同士の散乱(ウムクラップ散乱)や、フォノンの不純物や境界による散乱によってフォノンの運動量が失われるために熱抵抗が生じる。またこれらの散乱過程の頻度によって、熱の伝わりやすさの目安となる熱伝導率の大きさは決まる。一方、波数ベクトルの小さなフォノン同士の散乱(ノーマル散乱)過程においては、フォノンの運動量は保存されるため、この散乱過程は熱抵抗に寄与しない。 ところが本研究において、黒リンの熱伝導率を詳細に測定するとフォノンの熱伝導現象において通常表に出ることのないノーマル散乱が主たる散乱過程となるために、散乱によって運動量を失うことのない理想気体に類似した、流体的なフォノンの熱輸送が実現していることを見出した。また本来熱伝導率が試料サイズに依存しない高温の拡散領域において、熱伝導率の大きさが試料サイズによって変化すること分かった。加えて同温度域において、ゼーベック係数にも顕著な試料サイズ依存性が現れることが明らかとなり、絶縁体の熱電現象にフォノンの流体的熱輸送が深く関わっていることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
絶縁体の低温における熱電現象を明らかにすることを目的とした本研究において、絶縁体の黒リンでフォノンがあたかも流体のように振る舞うことによる異常なフォノン熱伝導を見出し、この現象と熱電現象との深い関わりを明らかにすることができたため、研究目標に向けておおむね順調に進展している状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
絶縁体状態にある黒リンの低温熱電効果は明らかにできつつあるが、黒リンは比較的低い圧力で絶縁体から金属へと電子状態が変化することがその特徴である。この電子状態の劇的な変化に伴って熱電現象がどのように変化するのかを明らかにすることを今後の目標とする。
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Causes of Carryover |
予想していなかった黒リンの異常な熱輸送が明らかとなり、その研究に注力したため当初予定していた圧力下における熱電係数測定実験が次年度にずれ込み、当実験に必要な装置を購入しなかったために次年度使用額が生じた。 平成30年度は予定していた圧力下における熱電係数測定実験を遂行し、そのために必要な圧力セル等の実験装置の購入に予算を充てる。
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