2017 Fiscal Year Research-status Report
強相関絶縁層が挿入された新型層状有機超伝導体における新奇な電子状態の探索
Project/Area Number |
16K05436
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
川本 正 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (60323789)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 超伝導 / モット絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機超伝導体(EtDTET)(TCNQ)はドナー・アクセプター型の純有機物質であり、常圧にてTc ~ 5 K程度と報告されている。この物質の抵抗測定を行なったところ、試料依存性が強く超伝導転移が明瞭に見える試料が少ないことがわかった。これは報告されている結晶構造を有する物質が報告されている温度で超伝導を示すのかという疑問を呈するものである。そこでX線結晶構造解析が可能と思われる単結晶試料で磁気トルクを測定し、超伝導を示すことを確定させた試料の構造解析を行った。磁気トルクの結果から超伝導転移温度Tc = 4.3 Kの試料の存在を明らかにした。この試料のX線結晶構造解析を行ったところ、報告された構造と同型であることが明らかになった。ドナー分子をBEDT-TTFと同様にしてTTF骨格の結合距離から電荷移動量を見積もったところQ = +0.44(6)を得た。したがって、TCNQダイマーがモット絶縁体状態にあり、ドナー層が2次元的なフェルミ面をもつ金属で超伝導転移を示していると考えられる。さらに抵抗測定において4.3 Kで抵抗が減少する物質以外に6.9 Kと4.8 Kの2段階転移を示した物質のX線回折実験も行った。格子定数は同じであったが、伝導層間方向に超格子反射と思われる反射が何点か観測されたが、試料の質が劣化しているため単結晶試料においてこれが現れているのかは明らかでない。 また、真性モット絶縁体である(BEDT-TTF)TaF6の結晶成長過程において多形であるkappa-(BEDT-TTF)2TaF6を発見した。2種類のdelta型に加えて4つ目の構造である。この物質の抵抗測定や電子スピン共鳴の測定からダイマーモット絶縁体であり、スピン液体の可能性もあることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の試料を用いた磁化測定でのみ超伝導が報告されていた物質であるため、報告されている構造と超伝導を示す物質との対応が確実ではなかった。報告されている構造の物質はTc = 4.3 Kの超伝導体であることを、磁気トルクとX線回折の実験から確実なものにした。さらに、結晶構造解析の結果からドナー・アクセプター間の電荷移動量を明らかにした。 また、新物質としてkappa-(BEDT-TTF)2TaF6を見出し、これがダイマーモット絶縁体でありスピン液体の可能性もあることを見出した。
|
Strategy for Future Research Activity |
強相関絶縁層が挿入された構造をもつ有機超伝導体(EtDTET)(TCNQ)やkappa-alpha-prime-(BEDT-TTF)2M(CF3)4(TCE) (M = Ag, Cu)の電子スピン共鳴の実験を行い、絶縁層のスピン状態を明らかにしていく。磁気抵抗の測定から上部臨界磁場を見積もり、超伝導の次元性を明らかにする。また、真性モット絶縁体(BEDT-TTF)TaF6とダイマーモット絶縁体kappa-(BEDT-TTF)2TaF6の圧力下での抵抗測定を行い、超伝導の有無を明らかにしていく。特にダイマーモット絶縁体に関しては極低温での磁気トルク測定を行い、長距離秩序をもつ相への転移の有無を明らかにしていく。
|