2016 Fiscal Year Research-status Report
スピンクロスオーバーコバルト酸化物の微視的スピン状態評価と外場応答
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16K05443
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
浅香 透 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80525973)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 伸行 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (70582005)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スピンクロスオーバー / 遷移金属酸化物 / 構造解析 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
スピンクロスオーバー現象が一部のコバルト酸化物で見られることは50 年以上前から知られているが、その物理現象には未解明な点も多い。例えばスピンクロスオーバー現象を示す典型的なコバルト酸化物であるLaCoO3 の中間温度域のスピン状態については、未だ統一的な理解が得られていない。一方、これまでの研究によると、コバルト酸化物のスピンクロスオーバーではスピン状態の自由度に格子や電荷の自由度が作用することで、その特異性が顕わになるとされている。そこで本研究ではコバルト酸化物のスピンクロスオーバー現象の理解およびスピン状態相制御と交差相関物性の発現を目的としている。H28年度はスピンクロスオーバー現象の微視的評価、解析と元素置換によるスピン状態相制御、光照射効果の予備実験を行った。 具体的には二重ペロブスカイト型コバルト酸化物の結晶構造と構造相転移を単結晶X線回折と透過型電子顕微鏡法により評価した。さらに構造相転移点近傍での磁性を評価することで結晶構造と物性の相関について調べた。さらに偏光顕微鏡と電子顕微鏡による組織観察を行い、その解析結果は構造相転移がスピン状態転移に起因することを示唆するものであった。 元素置換によるスピン状態相制御については、単結晶の育成が困難とされる系(La1-xPrxCoO3)において、良質な多結晶試料を合成し、粉末X線回折と電子回折を行うことで構造相転移を観測した。さらに磁化率測定を行った結果、構造相転移点近傍で異常を見出した。これは構造相転移とスピン状態の相関を示している可能性があり、現在、詳細を調べている。 光誘起構造相転移の可能性の検討を開始し、いくつかの問題点の洗い出しとその解決方策について整理した。現在、それに基づき実験を実行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RBaCo2O5+dにおいて、既報のR = Gdに加えて、R = Euの系における332構造単結晶の合成を行い、単結晶X線回折と電子顕微鏡による構造解析を行った。さらに室温以上での構造解析を行うことで、構造相転移を観測した。また、構造相転移点での磁化率の異常を観測した。これらの系については、偏光顕微鏡と電子顕微鏡による局所構造解析と組織観察を行い、構造相転移とスピン状態転移の相関について詳しく調べた。加えてR = Tbの系についても、構造評価を行った。R = Tbの系は、R = EuおよびGdと温度に関して異なる挙動を示した。 La1-xPrxCoO3の系について、多結晶体の合成を行った。x = 0.3 -0.7の組成でのフローティングゾーン法による単結晶の育成は困難との報告があるが、多結晶体については固相反応法によりx = 0.4 -0.7については、ほぼ単相試料が得られることが分かった。さらにクエン酸法を検討した結果、x = 0.3 - 0.4についても単相試料が得られ、本系が連続固溶を示すことがわかった。得られた多結晶体について、低温及び高温の構造解析を行った結果、本系は温度に関して構造相転移を示すことがわかった。 スピンクロスオーバーを伴った金属―絶縁体転移を示す(Pr1-xYx)1-yCayCoO3のフローティングゾーン法による単結晶育成と多結晶体の合成を行った。単結晶、多結晶ともに首尾よく合成でき、磁化率や電気抵抗率などの基礎物性の評価を行った。また、上記の物性を示す典型物質であるPr0.5Ca0.5CoO3について、粉末X線回折と電子回折実験を行った結果、本物質は直方晶歪みをもつものの、格子定数からは擬立方晶といえる構造であることがわかった。 RBaCo2O5+dに対して、光照射によるスピンクロスオーバーおよび構造相転移の可能性を探るための予備実験を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度から引き続き、LaCoO3の特異なスピンクロスオーバーの理解およびスピンクロスオーバーからスピン状態転移への転換を試みるため、La サイトをイオン半径がLa より小さい3 価イオンで置換し、構造相転移誘起のスピンクロスオーバーを試みる。H28年度は置換元素をPrとし、構造相転移を誘起することに成功し、構造相転移点での磁化率の異常も観測したが、Prは磁性イオンであるため、その解釈が複雑になった。H29年度はLa1-xPrxCoO3の構造相転移とスピンクロスオーバーの相関について、さらに検討を進めると共に、置換元素を非磁性のYとし、試料合成と構造相転移や磁性の評価を行う。それにより、本系のスピンクロスオーバーについて理解を深めると共に、スピン状態転移への転換を試みる。 (Pr1-xYx)1-yCayCoO3の低温構造について評価を行う。スピンクロスオーバーをはさんで低温相と高温相で結晶構造に変化が見られると予測されるが、その詳細についての報告は未だ無い。電子回折と単結晶X線回折を用いて詳細な結晶構造解析を行う。それにより、本系で見られる金属絶縁体転移を伴うスピンクロスオーバーの理解に努める。 RBaCo2O5+dと(Pr1-xYx)1-yCayCoO3については、原子分解能電子顕微鏡を用いて、それぞれの試料のスピン状態の情報と局所構造を高空間分解能で計測する。局所スピン状態は電子エネルギー損失分光法を用い、局所構造についてはナノオーダーに絞った電子ビームを用いるナノ電子回折により計測する。これらの情報で2次元マップを作製し、スピン状態および局所構造の空間分布に関する情報を得る。 RBaCo2O5+dおよびLa1-xPrxCoO3に対して、光誘起構造相転移の観測を試みる。光照射による組織構造の変化を偏光顕微鏡により観察すると共に電子回折によりその構造変化の詳細を検討する。
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Research Products
(5 results)