2019 Fiscal Year Research-status Report
電荷または軌道自由度による擬近藤効果と遍歴描像への接続
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16K05464
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
倉本 義夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (70111250)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軌道近藤効果 / エネルギーバンド構造 / 軌道縮退 / スピン軌道相互作用 / 鉄系超伝導体 / 量子ラトリング |
Outline of Annual Research Achievements |
軌道近藤効果に関して,今までの理論的扱いで想定されている伝導電子のスペクトルは,高度に理想化されている。すなわち,軌道縮退がブリアンゾーンのすべての点で存在すると仮定されている。実際の物質のバンド構造では,軌道縮退はブリルアン領域の高い対称点でもせいぜい4重縮退である。したがって,現実物質での軌道近藤効果の実現条件を詳しく検討する意義がある。 2019年度の研究では,軌道近藤効果の基本的な相互作用がバンド構造からどのように決まるかを論じた。これを具体的な物質で調べるため,第一原理バンド計算を行い(神戸大学の専門家との共同研究による),ワニエ関数フィットを用いて有効ハミルトニアンを実空間で求めた。単純な結晶構造を持つPrMg3とPrPb3を比較して,両者の異なる物理的性質の由来を明らかにした。すなわち,PrPb3のバンド構造は,f電子の軌道縮退状態につながる伝導バンドがフェル準位をまたいでいる。これは,伝導電子との混成相互作用が働いていることを意味する。実際,PrPb3では四極子モーメントの最大値は結晶場基底状態から期待される値よりも小さい。これに対して,PrMg3ではフェルミ面近くにはそのような伝導バンドは存在しない。実験的にも,PrMg3での混成効果は確認されていない。 軌道縮退が重要と考えられる別の物質系として鉄系超伝導体がある。この系の持つ層状結晶構造は間隙が多く,水素がその間隙に入り込むことがわかっている。その際,ポテンシャルが極小になる点が複数存在する。我々は,中性子非弾性散乱で観測されている10meV程度の励起が,このような間隙水素の量子的運動(ラトリング)に起源を持つと推測し,観測されている複数の励起が水素と重水素による同位元素効果であることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軌道自由度による近藤効果は,理論的提案から30年を経過しているが,まだ実験的な確証はない。我々の2019年度研究の主要な成果は,実際の物質の電子構造を解析して,軌道近藤効果の実現条件との関係を理論的に明らかにしたことにある。すなわち,軌道近藤効果に関して,現実的な電子構造を踏まえた初めての理論を構築した。 また,KEKを中心とする実験グループと協力して,鉄系超伝導体の特異な中性子非弾性スペクトルは,挿入された水素と重水素の量子的動力学に由来する可能性を論じた。水素は,電子ほどの量子性は示さないものの,一般の元素よりもはるかに軽いことが起因して,低温ではトンネル効果を代表とする量子力学的効果を示す。本研究では,今まで知られていた2サイト間のトンネル効果だけでなく,4サイトをめぐる運動(量子ラトリング)が生ずる可能性を示した。この運動と伝導電子との結合は電荷近藤効果の一形態になりえる。 さらに,研究責任者の長年の研究経験を国際的に若い世代に伝えるべく,量子多体系の英文教科書(専門書)を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
現実物質の軌道近藤効果の理解をさらに推進するため,バンド計算の専門家との協力をさらに推進する。具体的にはPrTi2Al20など,単位格子に多くの原子を含む物質にターゲットを広げ,実験的に観測されている興味ある圧力依存性と軌道近藤効果の関連について検討する。また,電荷近藤効果を含む拡張については,Smを含むスクッテルダイト系やSmTa2Al20系の理解を視野にいれて研究を進めたい。 本研究の研究成果は,出版論文だけでなく,国内外のセミナーや学会発表で公表する予定である。
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Causes of Carryover |
パソコン関連のハードウェアとして,予定よりも安い価格で導入することができた。また,外国出張については,種々の状況から2019年度は実施しなかった。2020年度は,パソコン関係の消耗品を更新する予定である。また,KEKや神戸大学への国内出張,および中国などへの外国出張に当科研費から旅費を充当する予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Quantum dynamics of hydrogen in the iron-based superconductor LaFeAsO0.9D0.1 measured with inelastic neutron spectroscopy2019
Author(s)
Jun-ichi Yamaura, Haruhiro Hiraka, Soshi Iimura, Yoshinori Muraba, Joonho Bang, Kazuhiko Ikeuchi, Mitsutaka Nakamura, Yasuhiro Inamura, Takashi Honda, Masatoshi Hiraishi, Kenji M. Kojima, Ryosuke Kadono, Yoshio Kuramoto, Youichi Murakami, Satoru Matsuishi, and Hideo Hosono
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Journal Title
Phys. Rev. B
Volume: 99
Pages: 220505_1-5
DOI
Peer Reviewed
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