2021 Fiscal Year Research-status Report
電荷または軌道自由度による擬近藤効果と遍歴描像への接続
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16K05464
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
倉本 義夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (70111250)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 軌道近藤効果 / 軌道縮退 / 鉄系超伝導体 / 上部臨界磁場 / 2バンドモデル / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,以下の2つの内容で研究を行った。 (1)軌道近藤効果を広い文脈で捉え,軌道自由度が重要な役割を演じている可能性が高い物質を対象に実験家との協同研究を行った。昨年度からの継続として,鉄オキシニクタイドLaFeAsO_1-xH_xが水素ドーピング量xに依存して,2つの超伝導相(SC1およびSC2)と2つの高温相を持つ特徴的な物性を示す原因を追求した. 本研究では,105Tまでの強磁場下での上部臨界磁場の温度依存性を2バンドモデルに基づいて解析し、低ドープ相SC1ではバンド間結合が超伝導をもたらす原因であるのに対し、高ドープ相SC2ではバンド内結合が主因であることがわかった.SC2で多軌道効果が重要でないとすると,ペアの対称性はd波の可能性が強くなり,今までの通説とは異なる。また,新たにH^-イオンによる高いイオン伝導率を示すLaH_3-2xO_xについて中性子散乱の実験家との協同研究を行なっている。水素は量子効果も重要になるので,質量に応じて電子-ミューオン-水素各々の伝導性が変化する様相を比較する視点が有用である。 (2) Vanderbilt著作による評判の高い教科書 "Berry phases in electronic structure theory" (Cambridge University Press, 2018)の日本語訳を行った。本書は,物質のバンド構造とトポロジカルな性質との関係に焦点を当てたものであり,近藤効果への言及は主ではない。しかし,軌道近藤効果がきいているSmB6などをトポロジカル絶縁体とみなす研究が多くなされているので,軌道近藤効果の新展開にも有益な教科書と見做される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
KEKを中心とする実験グループと協力して,近藤効果が見られる典型的物質群とは異なる方向に研究を広げている。コロナ禍のために出張して議論をすることのバリアが高くなり,ZOOMによる議論を活用することにより研究協力を補っている. その際に,電子相関についての長年の経験が新しい物理的解釈を行なうための有力な助けになっている. 例えば,鉄系超伝導体の上部臨界磁場がドーピング量によって非常に異なる挙動を示すことから,クーパー対の対称性が異なる可能性を示したことは,この物質群の全体的理解に資するものと考えられる. 一方,高水準の学術書を大学院初級学生にも触れやすくするため,日本語への翻訳を行った。この結果は2022年半ば頃に出版される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄系超伝導体については,実験家との共同研究で扱っている結果と既存の結果を批判的に分析し,軌道自由度の重要性についての理解をまとめたい. また水素イオンによる高い伝導の研究は当初の目的にはなかったが,質量に依存する量子効果の重要性に着目して新しい知見を得たい。 今の所,コロナ禍で出張しにくい状況が続いているが,オンラインの議論もできるだけ活用して,研究全般の仕上げを行うように努力する.
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ禍で出張が制約されたことが主な原因となり,研究仕上げを次年度に延ばす必要があった. 2022年度は国内出張費用と消耗品購入に科研費を充てる計画である.
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