2016 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル表面状態における超伝導状態および渦糸芯電子状態の解明
Project/Area Number |
16K05465
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岩谷 克也 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (00373275)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トポロジカル超伝導 / 走査型トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、β-PdBi2、PbTaSe2などのトポロジカル超伝導体候補物質のトポロジカル表面状態およびその超伝導状態を観察し、渦糸芯におけるマヨラナ状態などトポロジカル超伝導特有の性質を実験的に明らかにすることである。
今年度はトポロジカル超伝導体候補物質のひとつであるβ-PdBi2のスピン偏極表面状態とその超伝導状態を、STMを用いて同時に観察することに成功した。準粒子干渉パターンの観察と詳細なシミュレーションにより、フェルミ準位付近の表面状態が全てヘリカルにスピン偏極していることを明らかにした。この表面状態において、フルギャップの超伝導ギャップが観察され、表面付近の反転対称性の破れから期待されるスピン一重項と三重項が混成した超伝導状態と矛盾しないことを明らかにした。またマヨラナ束縛状態の存在が期待される渦糸芯において、その兆候であるゼロエネルギー状態は観察されなかった。今後、より高純度の試料およびより低温での測定でスピン三重項成分、マヨラナ状態を検出できる可能性がある。
またマヨラナ状態の特徴として、渦糸芯における特異な磁気構造の出現が理論的に提案されている。これを実験的に直接観察するため、スピン偏極STM測定の準備を行った。磁性探針を作製するため、バルクの反強磁性体クロムを用いてこれを電解研磨することにより先鋭化を試みた。しかしクロムの脆い性質上、歩留まりよく鋭い探針を作ることが困難であることが判明し、代替案を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究実施計画では、本年度はβ-PdBi2のスピン偏極表面状態およびその超伝導状態を明らかにし、さらに渦糸芯における特異な磁気構造を実験的に検出するため、スピン偏極STMの準備とこの手法による渦糸芯観察を目指した。
しかし、β-PdBi2の表面スピン偏極状態を明らかにするために行った第一原理計算に基づく詳細なシミュレーションに予想以上の時間を必要とした。この計算手法の確立により、β-PdBi2のスピン偏極表面状態の理解が進んだだけでなく、もうひとつの候補物質であるPbTaSe2へも応用できるため、表面状態の解明に役立つ強力なツールを得ることができ、結果的には非常に有益な成果となった。
一方、スピン偏極STM用の磁性探針として、電解研磨によるクロム探針の作製を試みた。しかし、クロムは通常のSTM探針として使用されるタングステンのようには研磨されないことがわかり、当初の計画を変更することにした。また磁性探針のスピン偏極を確認するための標準試料として、当初はクロム単結晶の劈開面を提案していた。しかし、実際に劈開を試してみた結果、予想以上に困難であることがわかりこれも変更する必要がある。これらの代替案を既に検討済みである。以上の理由により、現在までの進捗状況は計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン偏極STM用の磁性探針として、タングステン探針先端にクロムあるいは鉄などの磁性薄膜を蒸着したものを用いる。これまでのほとんどのスピン偏極STMの報告例においてこの手法が採用されている。本研究ではさらに電界イオン顕微鏡を用いて探針を先鋭化し、原子レベルで鋭い磁性探針の作製を目指す。また磁性探針のスピン偏極度合を確認するための標準試料として、低温で反強磁性を示すFeTe単結晶表面を用いる。FeTeの清浄表面はバルク単結晶を劈開することによって容易に得られるため、標準試料として最適であると考える。この手法により作製した磁性探針を用いて、もうひとつのトポロジカル超伝導体候補物質PbTaSe2の渦糸芯を観察し、マヨラナ状態の特徴である特異な磁気構造の有無を検証する。
また別のトポロジカル超伝導体候補である従来超伝導体とトポロジカル絶縁体のヘテロ構造を作製しその超伝導状態を測定する。フェルミ準位付近に表面状態しか存在しない理想的なトポロジカル絶縁体であるBi1.08Sn0.02Sb0.9Te2Sを用い、超伝導転移温度が高いPb薄膜をその上に成長させ、トポロジカル超伝導発現の可能性を探る。
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Research Products
(2 results)