2016 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル界面を用いた新奇な量子波束の生成および制御に関する理論
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16K05467
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
小野田 勝 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (80425727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子波束 / ヘリカル表面状態 / 格子模型 / トポロジカル絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカル絶縁体に代表されるトポロジカル物質と真空を含む通常物質との境界にはバルク禁制帯中に特殊なギャップレス状態、例えばスピン自由度が軌道運動と強く結合したヘリカル表面状態が現れる事が確認されており、同様の機構に基づき設計された光子系に対する人工媒質においても類似の表面モードの発現が指摘されている。本研究では、このような特殊な状態をもつ表面/界面(以降、トポロジカル表面/界面)を用いた電子波束のスピン構造や光波束の渦構造の制御、位相幾何学的に非自明なスピン構造/渦構造(例えばトロイダル多重ボルテックス構造)をもつ量子波束の生成可能性や伝搬特性について理論的に明らかにすることを目的とする。 平成28年度は、波束シミュレーションに向けて考案した3次元格子模型列について、表面状態解析解の構成法および解の多様性に関する研究を行った。この模型列は異なるスピン依存性をもつ最隣接ホッピングに対して共通のバルク・バンド構造を保つという特徴があり、従来の模型を個別に比較するのに比べ、バルクの状況と表面状態の関係を系統的に議論することができる。この観点から解析解の構成法を再検討し、その適用領域を広げるとともに、表面状態スピン密度とホッピング項との対応関係を明らかにし、多様性のパターンを整理した。また、3次元系シミュレーションに先立ち厚板型の擬2次元系シミュレーションを実施することを思い立ち、試料側面にのみヘリカル表面状態が現れる弱いトポロジカル絶縁体相も記述できるよう拡張した模型列に対して同様の解析を行った。具体的には、異方性を調整できるよう最隣接および次最隣接ホッピングに方向依存性を導入した模型列について、周期系バルク状態のZ2トポロジカル指標と開放系表面状態に関する数値解の整合性を確認した後、表面状態解析解の構成法の拡張および多様性のパターンの再整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3次元格子模型の系列における表面状態解析解の構成法およびその多様性に関するパターンの整理の途中、当初予定してた3次元系シミュレーションに先立ち厚板型擬2次元系シミュレーションを試行したほうがその後の見通しが良いことに気づき、模型を拡張して一連の作業のやり直しを行った。等方性の高い模型では強いトポロジカル絶縁体しか記述できないため、厚板型の系では上下面の表面状態が干渉して表面状態にギャップが開くことが予想される。そこで、ホッピング項に異方性を導入し、厚板型の試料の側面にのみ表面状態が現れる弱いトポロジカル絶縁体相も記述できるように模型列を拡張した。このため成果を論文として発表するまでに至らなかったが、より広範囲の模型列に対して状況を整理することができた。平成29年度はこれらの結果を含めて論文にまとめる予定である。また、研究協力者の一人と実施しているトポロジカル絶縁体スピンフィルターにおけるスピン干渉効果に関する研究などの関連研究に進展が見られたため、電子系を対象とする研究に時間をかけてしまい、光波束に関する研究を進展させることができなかった。ただし、光子系を対象とした関連研究として、フォトニック結晶界面モードの群速度の制御に関する解析を別の研究協力者と共に行った。
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Strategy for Future Research Activity |
格子模型列を用いたヘリカル表面状態の解析については、異方性を調整できるよう拡張した模型列を含め、表面状態解析解の構成法およびその多様性のパターンに関する結果を早急に論文としてまとめる。また、ヘリカル表面状態の伝搬特性の解析の一環として摂動に対する散乱特性の解析に着手する予定である。 格子模型列の構成にあたっては当初から波束シミュレーションへの応用を想定し、トポロジカル絶縁体としての基本的な特徴を備えつつ可能な限り簡素な構造とするため、基本と成る格子構造を単純立方格子とした。ただし、トポロジカル相転移の両側におけるバルク・バンド構造を共通化できるよう工夫した結果、元の格子を副格子に分けて符号の異なるバルク変数を導入する必要がある。これまでに、元の格子を基準とした (001)表面と(111)表面について解析解の妥当性の評価として射影バンド構造に関する数値解との比較を行ってきた。解の構成法の適用範囲には、バルク変数およびブリルアン領域のいずれについても制限があるものの、バルク変数が適用範囲内であれば適用範囲外のブリルアン領域においても解析解と数値解は良い一致を示している。加えて電荷密度およびスピン密度の分布に関しても定量的に良い一致が得られており、解の妥当性を支持している。そこで、これらの各表面やその接合系に対して、表面状態の伝搬特性の解析を計画している。 一方、トポロジカル光波束の伝搬特性の解析と安定性向上のための方策についてやり残している課題を実施する。具体的にはトロイダル渦構造をもつ光波束の伝搬特性を調べるための計算手法の改良を行う。当該の数値計算には離散フーリエ変換・逆変換を含むため、実空間と波数空間の同時離散化に関する部分の改良を検討し、計算速度の向上と計算可能なシステムサイズの拡張を目指す。
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Causes of Carryover |
全体の予算規模からすると小額であることと、今年度の物品費および旅費の使用額が当初の見積もりを超過したことから、次年度の物品費または旅費に繰り入れて使用することで、より有益に使用できるものと考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に購入予定の物品の機能追加または機能向上のための費用の一部として使用する。モデルチェンジ等により見積もり額が折り合わない場合は、旅費に不足が生じた場合の補填として使用する予定。
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Research Products
(7 results)