2018 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル界面を用いた新奇な量子波束の生成および制御に関する理論
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16K05467
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
小野田 勝 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (80425727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トロイダル量子波束 / ヘリカル表面状態 / トポロジカル物質・媒質 / 格子模型列 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカル絶縁体の表面/界面には、スピン自由度と軌道運動が強く結合した特殊なギャップレス表面/界面状態(ヘリカル表面/界面状態)がバルクの禁制帯中に現れる。応用上も重要であることから,光子系など電子系以外の系へも概念が拡張され、発現機構の実装例が提案されるなど独自の発展を見せている。本研究は、このような表面/界面を用いた電子波束のスピン構造や光波束の渦構造の制御、位相幾何学的に非自明なスピン構造/渦構造をもつ量子波束の生成可能性や伝搬特性について理論的に明らかにすることを目的とする。 3次元系界面のモデル化の困難により平成29年度から擬2次元系のシミュレーションを先行することとし、試料側面のみにヘリカル表面状態が現れる弱いトポロジカル絶縁体相を記述できるよう模型の拡張と数値解析用の実装を行い、平成30年度は、この模型を用いて平板状の系について試料構造依存性を解析した。具体的には、一方向にのみ周期境界条件を課し、射影バンド構造と電荷・スピン密度分布について表面の組み合せや厚み方向の層数に対する依存性を調べた。弱いトポロジカル絶縁体相にある平板状系では側面の表面状態およびそれらとエネルギー的に近い状態の分散関係に対して,厚み方向の層数に関する明確な偶奇効果が見られた。特に有限のギャップを生じる偶数層系のサイズ依存性を詳しく調べ、結果をまとめ日本物理学会2018年秋季大会にて発表を行った。 光子系に関する研究として、 2次元トポロジカルフォトニック結晶模型のヘリカルエッジ状態を用いた非対称伝搬の効率化について共同研究者と共に調べ、日本物理学会2018年秋季大会で発表を行った。また、周期構造中の光渦に関する研究について執筆依頼を受け、トロイダル型の渦構造をもつ電磁波束の構成法や安定性に関するこれまでの結果を含めて論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
接合領域における波束ダイナミクスを調べるためには、界面近傍のモデル化とその妥当性を担保する基準が必要になるが、3次元模型に対してはその糸口がつかめていない。そこで昨年度は、擬2次元系のシミュレーションを先行することに方針転換し、試料側面のみに表面状態が現れる弱いトポロジカル絶縁体相も記述できるように模型列を拡張した。今年度の前半は、この模型を用いて平板状の系についてヘリカル表面状態の試料構造依存性を調べた。一方向に周期境界条件を課し、計4面の2種類の表面をもつ系について試料の方向を適切にとればヘリカル表面状態が必ず現れることを確認し、射影バンド構造などの試料構造依存性を調べた結果、厚み方向の層数が少ない場合、ヘリカル表面状態のギャップに顕著な偶奇効果が現れることがわかった。サイズ依存性を考察することにより、弱いトポロジカル絶縁体相に対する新たな解釈と応用のヒントを見つけられる可能性がある。 後半に入ると、周期構造中の光渦の伝搬特性について寄稿依頼があり、トロイダル型の渦構造をもつ光波束に関する結果も含めて論文にまとめることとした。執筆途中でフォトニック結晶中の光渦および界面における光波束の反射・屈折に関する数値解析の追試と追加計算が必要になり、想定以上の時間を消費してしまい他の課題、特に電子系に関する研究が停滞している。また、トポロジカル絶縁体格子模型列における解析解の適用範囲が想定よりも広いことが昨年度に判明したため、トポロジカル転移の両側においてトポロジカル絶縁体相と通常の絶縁体相の表面状態を比較しながら調べ直し、解析解構成法の理論的根拠を補強し論文の改訂を進めていたが、こちらも完成を次年度に持ち越すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に格子模型のヘリカル表面状態の解析解の適用範囲が通常の絶縁体相の表面状態にも及ぶことが判明したため、論文の構成をヘリカル表面状態のみに焦点を絞った内容から大幅に変更し改訂を進めていたが、擬2次元系の数値計算と比較するために準備していた(011)表面の解析解の構成を平成30年度中に完了できなかった。平成31年度の前半は、(011)表面の解析とこの結果を含めた論文の完成を優先する。 トポロジカル光波束の伝搬特性の解析については平成29年度に方針転換し、実空間と波数空間の同時離散化に関する部分の改良を保留し、かわりに既存のコードの状況設定を改変して平面境界以外の場合への応用を試みる予定であったが、平成30年度中に着手できなかった。先の格子模型のヘリカル表面状態に関する論文の目処がつき次第、着手する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究に先行して行っていた周期系の光渦に関する研究について機械工学の研究者から寄稿依頼を受け、分野外へも広報できる貴重な機会であると考え、トロイダル型渦構造をもつ光波束に関する結果も含めて論文にまとめることとした。当初2ヶ月程度でまとめる計画であったが、執筆の途中で追試・追加計算が必要になり、それに伴う可視化・作図等の作業も想定以上に増えてしまい、年度はじめに予定していた他の課題の計算を進めることができなかった。また、その一方で予定外のデータが大量に発生することとなった。そのため、バックアップ用のファイルサーバと外付けのストレージの購入を予定していたが、それらの構成を再検討する必要が生じ、年度内の選定が間に合わず購入に至っていない。また、当該論文は年度内に投稿できたが、受理と掲載手続きが決算に間に合わず、掲載料として残していた予算が未使用となっている。その他、先行して改訂中であった論文の英文校正費と掲載料のための予算が未使用になっている。いずれも次年度、当初の目的どおりに使用する計画である。
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Research Products
(3 results)