2020 Fiscal Year Research-status Report
長距離相互作用系のダイナミクスと臨界現象および応用
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16K05472
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 義幸 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40314257)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 長距離相互作用 / 臨界現象 / 普遍性 / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
大自由度ハミルトン系は、長時間経過後に熱平衡状態に緩和すると言われている。しかし相互作用が長距離に及ぶ場合は、緩和過程において、準定常状態と呼ばれる非熱平衡状態に長時間に渡ってトラップされる。従って、準定常状態における相転移、あるいは力学的な分岐を調べることが重要となる。相転移や分岐の研究においては、系の詳細に依らない普遍性を抽出することが目的の一つとなるが、本研究では新しい普遍クラスを提唱するという成果を得た。分岐は通常、温度などの環境パラメータで決定されているが、われわれが得たこの普遍クラスでは長距離相互作用系が有する力学的な保存量によってもダイナミクスが変化しうることを明らかにした。さらには、射影を用いて大自由度系を簡約化することにより、分岐点近傍でのダイナミクスを定量的に予言することにも成功している。 本研究のもう一つの目的は、ハミルトン系研究で得られた知見を、より広い散逸系をも含む対象へと応用することである。本研究ではその中でも特に、リズム現象を記述する結合振動子系への応用を行った。各振動子が他のすべての振動子と結合している場合、つまり完全グラフ系の臨界現象についてはこれまでよく研究されている。また振動子をスモールワールドネットワーク上に配置した場合にも、完全グラフ系と同様の臨界現象を起こすことが知られている。一方で完全グラフ系においては、振動子の個性のばらつき方や結合のあり方を変更することにより臨界現象を特徴付ける臨界指数が変化しうることが知られている。本研究では、スモールワールドネットワーク系においても完全グラフ系と同様に臨界指数の変化が起こるか、という問題に対して否定的な解答を与えた。この結果は、二つのネットワークがダイナミクスとしての共通点・相違点を持つことを示しており、ネットワークをダイナミクスを通して特徴付ける一歩として価値がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は大きく分けて二つある。一つは、星団やプラズマ系など大自由度長距離相互作用ハミルトン系の準定常状態における臨界現象・臨界指数を調べること、もう一つはその知見を活かし散逸系を含む他の対象にも応用することである。現在までの研究において、準定常状態における臨界指数に関する成果を複数、査読付き国際雑誌にて出版できている。本年度にも論文1編を上梓している。また応用としては、ハミルトン系では離散ブリーザーと呼ばれる現象への応用、散逸系である結合振動子系では新奇な分岐図の発見・線形応答理論の提唱・ネットワーク系における臨界指数といった成果を得ており、本年度はネットワーク系に対する成果を出版することができた。よって本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。当初予期しなかった事象としては、新型コロナウィルスの影響が挙げられる。本研究では国際共同研究が重要な役割を果たしており、共同研究を円滑かつ効率的に推進するために共同研究者のもとに渡航する計画を立てていた。しかしながら渡航が実施困難となり、国際共同研究の進展が影響を受けている。その中にあっても、インターネットを活用した国際交流や、国内研究者との共同研究の実施などによって、本年度も十分な成果を挙げられたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はハミルトン系における基礎研究と、広い対象への応用を目的としている。ハミルトン系研究においては、準定常状態における分岐解析を発展させることを予定している。従来、粒子の速度分布が滑らかな一山型である場合には普遍的に連続分岐が起こるが、一山でも箱型の場合には不連続分岐が起こることが知られている。すなわち、これら二種類の速度分布の間に、分岐が連続あるいは不連続となる境界があるはずであり、不連続性を誘発する要因を明らかにする必要がある。この問題を理論的に調べ、数値シミュレーションにより検証する。一方、応用としての散逸系においては、本年度でその一端を得たネットワーク系のダイナミクスによる特徴付けを進める。また、提唱している線形応答理論を活用して、観測した量から系の内部状態を推定する同定問題や、長距離相互作用系における線形応答と揺らぎの関係解明についても取り組む。 本研究で基軸としているハミルトン系に対しては、本研究のように分野横断的な立場で研究を行っている国内の研究者は多くない一方で、海外においては活発に研究しているグループが複数ある。このため、国際共同研究が重要な位置を占めている。特に理論構築では海外共同研究者とアイディアを交換することによる発展が必要不可欠である。直接議論を行うことにより共同研究の円滑かつ効率的な推進が図れるため、渡航可能な状況になれば当初計画通り渡航して共同研究・国際会議への参加を行う。しかしながら新型コロナウィルスの状況は予測することが難しい。そこで数値シミュレーションによるケーススタディを強化することを予定している。最新型の計算機を導入することによってシミュレーションの高速化を図り、その結果を理論へと昇華させ研究推進の加速を図る。インターネットを活用した国際交流を継続するとともに、国内の共同研究者との研究をさらに充実させることも予定している。
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Causes of Carryover |
本研究が主に対象とする分野では、国内よりも海外で活発な研究が行われている。従って、本研究においては国際共同研究ならびに国際会議での成果発表が重要となっている。このための経費として、旅費を計上している。しかしながら、新型コロナウィルスの影響により、計画していた共同研究・国際会議参加のための渡航を三度に渡って取り止めざるを得なくなった。なるべく当初計画を完遂するよう状況の改善を待ったが残念ながら渡航可能とはならず、旅費として使用できなかった。これが次年度使用額が生じた理由である。次年度においては、海外渡航が可能な状況になれば計画通りに渡航を行う。しかしながら状況は不透明であるため、それ以外の方策として最新型の計算機を導入することを計画している。数値シミュレーションによるケーススタディを強化することにより研究推進の加速を図る。
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