2022 Fiscal Year Research-status Report
長距離相互作用系のダイナミクスと臨界現象および応用
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16K05472
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 義幸 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40314257)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 形状変化 / 力学的安定性 / バネ玉モデル / 多時間スケール |
Outline of Annual Research Achievements |
相互作用が長距離にまで至る系は、平均場系としてよく近似される。実際、重力系やプラズマ系を記述するVlasov方程式(分布関数方程式)は、粒子と平均場との相互作用を記述していると解釈することができる。すなわち、Vlasov系では系の平均的な時間変化を問題とする。多数の粒子から構成されるハミルトン系ではあるが、Vlasov系では平衡統計力学の結果とは一致しない様々な現象が観測される。典型的な力学効果としては、カシミールと呼ばれる保存量の存在や、それによる熱平衡状態への非緩和や、特異な臨界指数の存在などが挙げられる。 Vlasov方程式では粒子個々の配置は問題にしないため、粒子配置が問題になる場合、例えばいくつかの原子で構成された分子の形状を問題する場合については改めて研究しなければならない。分子形状については、原子(あるいはユニット)を表す玉とそれらの間の結合を表すバネでモデル化したバネ玉系によって研究されることがある。鎖状バネ玉系については、先行研究によってバネに速い振動を励起することによって分子の直線形状が安定化される傾向にあることが数値計算によって観測されていた。つまり、形状変化を抑制する明示的な力がないにも関わらず、バネ振動があると形状変化の摂動に抗して直線形状が保持されるのである。 本研究では、力学効果が系の形状(粒子配置)に及ぼす効果を明らかにする第一歩として、3体の鎖状バネ玉系に対して先行研究の数値計算を理論的に説明することに成功した。さらに、バネに励起する基準モードを選択することによって、形状の安定性を変化させられることも理論的に明らかにし、数値シミュレーションで実証した。本研究の成果は、生体分子の形状決定や化学反応の反応速度などに対して、力学的効果による寄与を明らかにする端緒を開いたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、本年度に得られたような応用的な研究と併せて、基礎的な研究も行っている。基礎研究については海外研究者との共同研究を主として行っているため、共同研究を効率よく推進するために海外渡航による直接議論を予定していた。しかしながら、コロナ禍によって海外渡航が制限され、基礎研究の進度は予定していたよりもやや遅れていると言わざるを得ない。このような状況にあってもオンライン議論やメール等を通じて共同研究は継続しており、成果も近々公開される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
バネ玉系を含む応用研究については、3体系で得られた結果を多体系に拡張することや、形状の多様化、化学反応への応用などを予定している。多体系への拡張についてはすでに研究成果を得られており、今後は論文出版に向けて進めていく予定である。形状の多様化については、これまで研究してきた鎖状分子に加えて、円環状分子などを考え、そのトポロジー効果について調べる。またこれまでの理論で得られた結果を現実の分子へ応用するためには、分子個々の特徴を理論に取り込む必要があるため、この方面に向けて推進する。 基礎研究については、引き続き海外研究者との共同研究を行う予定である。研究内容は、最近得られた理論的研究成果を実験可能な物理系へ応用することなどを議論している。コロナ禍も治まりつつあるため、海外渡航について大きな支障がなければ、当初の予定通り直接的な議論によって研究推進の効率化を図る。
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Causes of Carryover |
本研究の主たるテーマについては海外研究者との共同研究を予定している。共同研究を効率よく行うためには対面しての直接的な議論が必要であり、そのための予算として海外旅費を計上していた。また研究成果を発表する場として国際会議への参加も予定していた。しかしながら、引き続くコロナ禍によって海外渡航の実施は延期せざるを得なかった。このため、主に旅費として計上していた予算が次年度使用額となっている。本年度においてはコロナ禍が治まりつつあるため、当初の予定通りに海外旅費としての使用を計画している。また必要に応じて、最新の計算機を購入することにより研究進度を向上させることも検討する。
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