2016 Fiscal Year Research-status Report
ヘリシティ概念の深化に拠って立つ成層・電磁流体回転流の3次元安定性
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16K05476
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
福本 康秀 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (30192727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クロスヘリシティ / トポロジカル不変量 / 電磁流体 / 成層回転流 / ジャイロスコープ効果 / レイリー・テイラー不安定性 / アトマイズ化ジェット / 二流体モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
密度成層流体の運動においてはバロクリニック効果の、電磁流体 (MHD) においてはローレンツ力の作用のおかげで、渦度はもはや凍結場ではない。渦線のトポロジーという観点だけからは、トポロジカル不変量を同定することはできない。オイラー・ポアンカレ形式を拡張することによって、変分原理の枠組みで、粒子ラベルつけ替え対称性に対応するネータ電荷としてのトポロジカル不変量はすべてクロスヘリシティ表現をとることを示した。 ブシネスク近似のもとでは、回転楕円体内を満たす非圧縮成層流体の速度が座標について線形である回転流は、対称こまを支配する常微分方程式系によってモデル化でき、コリオリ力がジャイロスコープ効果を生み出す。眠りごまとの類推によって、軽い流体が重い流体をその上に支えることができることを示唆する。まず、傾いた楕円体に閉じ込められた回転成層流と、重心が対称軸上にはない対称こまの運動が等価であることを示した。眠りごまは定常解で、回転角速度が臨界値より大きいとき安定であるが、偏心はカオス的挙動をもたらす。次に、垂直立てた回転楕円体の下半分に閉じ込められ、対称軸周りに回転運動を行う二層流体のレイリー・テイラー不安定性を計算した。回転角速度が十分大きいとき、軸対称モードは抑制される。こまとの類似によって、軽い流体が重い流体を支えることができ、扁平さが増大するにつれ臨界回転速度が減少することを説明できた。 アトマイズを起こす高レイノルズ数乱流ジェットの二流体モデルを提唱した。ジェットの形状は円錐状で、液相と気相が十分に混合した動的平衡状態にあるとして、二流体全体に質量保存則と運動量保存則を適用し、平均密度、平均速度、平均圧力、特に、気相取り込み率をノズルからの距離の関数として導いた。円錐の頂角のみが恣意的パラメータである。このモデルが導く結果は、ごく近傍を除いて、実験データと定量的によく合う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度当初に計画した、電磁流体力学(MHD)に対する変分原理であるオイラー・ポアンカレ形式を整備し、それに対してネーターの定理を適用することによって、MHDのカシミール不変量(=トポロジー的不変量)の全体像を明らかにする、という目標を達成した。この結果を踏まえて、カシミール不変量すべて保つ摂動である等磁気循環摂動をラグランジュ変数によって書き下し、MHDの波のエネルギーを与える一般公式の新たな表式に到達し、負エネルギーの意味を明らかにしつつある。さらに、ラグランジュ変数による撹乱の方程式から導かれるHain-Lust方程式に弱い粘性と磁気拡散を組み入れて、非理想MHSの3次元方位磁気回転不安定性のWKB解析を行って、軸方向波長の長い撹乱に対する新しい不安定モードを見つけた。回転楕円体容器内の回転流の線形安定性についても、速度場および密度場が座標について線形である場合と、二層流体の両方の場合について研究を行い、眠りゴマとのアナロジーを援用して、軽い流体が重い流体を支えるメカニズムに対する洞察を得た。 ラグランジァン流体力学を構築して、それによって相互作用する渦管の2次元運動を記述するという計画が当初の計画からみて遅れ気味である。しかし、渦対の運動速度の極めて簡便な一般公式を導くことに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
トポロジカル不変量を陽に保存させる、ラグランジュ変数を用いたトポロジカル電磁流体力学構築にとりかかり、波のエネルギーや波の相互作用によって誘起される平均流などMHD波の非線形特性を計算する方法を編み出す。波・平均流相互作用理論をヒントに角運動量の輸送を計算し、外部への角運動量輸送について考察する。 二相流体の界面の安定性の研究を、当初の計画より大きく展開する。H28年度は、閉じ込められた二相流体の水平界面のレイリー・テイラー不安定性の新しい結果を得たが、これを、自由表面をもつ流体の鉛直界面の安定性や燃焼界面のランダウ・ダリウス不安定性の研究に生かす。鉛直界面は一般的な強いシア流の不連続面によるモデル化である。ハミルトン力学系構造、ジャイロ効果、負エネルギーモードの計算方法を新たに開発し、その役割や意義等を数理的に解明し、理解を深めていく。これまでの界面の安定性の研究はもっぱら非圧縮性流体に集中し、圧縮性流体についてはさほど解明が進んでいない。波と平均流の相互作用を考える上で、音波や衝撃波を除外するのは、制約がきつ過ぎる問題設定である。圧縮性をゆるす流体、成層流体、そして電磁流体の界面の理論を深掘りしていく。
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