2017 Fiscal Year Research-status Report
複素固有値問題を用いた動的カシミール効果の制御理論
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16K05481
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
野場 賢一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30316012)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ガーモン サバンナスターリング 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30733860)
田中 智 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80236588)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | フロケハミルトニアン / 複素固有値 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子が輻射場と相互作用している系において周期外場で駆動することにより動的カシミール効果を制御する理論を構築するために、エネルギーが周期的に時間変化する離散状態が連続状態と結合した開放量子系についてフロケハミルトニアンの複素固有値問題の解析を行った。連続状態のスペクトルは複素エネルギー平面では実軸上のカットに対応するが、フロケハミルトニアンのスペクトルでは外場の振動数だけシフトしたカットが無限個存在することになる。このときそれぞれのカットについて2枚のリーマン面が存在するため、フロケハミルトニアンの固有値は複素エネルギー平面上で非常に複雑な構造を持つ。そこで本研究では簡単なモデル系を用いて、周期外場で駆動したときの各リーマン面における複素固有値の変化について詳細な解析を行った。 本研究では、周期的エネルギー変化の振幅を大きくすることによって、フロケハミルトニアンの固有値は実固有値から複素固有値へと変化する場合があることを見出した。この固有値の変化は、非マルコフ的な緩和過程からマルコフ的な緩和過程への変化に対応している。実際に離散状態における生き残り確率を数値的に計算すると、この固有値の変化に伴ってべき的な減衰過程から指数関数的な減衰過程へと変化する様子を見ることができた。この結果は、周期外場で駆動することによって定性的に異なる緩和過程が引き起こされるということを明確に示している。 さらに複素固有値問題の解析から派生した研究課題として、強いレーザー場で駆動した系の高次高調波発生のメカニズムや、吸収スペクトルにおける非対称形状と複素固有値問題の関係についても研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究では、駆動外場の影響によるマルコフ的な指数関数型減衰過程と非マルコフ型減衰過程の間の移り変わりについて、フロケハミルトニアンの複素固有値問題の観点から解析を行った。その結果、外場の振幅をパラメータとして変化させることにより、実固有値から複素固有値へと変化することが示され、この変化によって減衰過程の定性的な変化が説明されることがわかった。またこのような実固有値と複素固有値の変化においては例外点という特異点が存在することが知られているが、周期外場で駆動した動的な系においても例外点が出現することを示した。 また本研究課題から派生した研究課題として、強いレーザー場で駆動した系における高次高調波の発生についての研究を行い、フロケ状態の干渉効果の結果として高次高調波のスペクトルに特徴的なプラトーとカットオフが再現されることを明らかにした。さらに複素固有値問題の観点から吸収スペクトルにおける非対称なスペクトル形状についての研究を行ない、複素固有値をもつ状態に対する遷移そのものが非対称なスペクトルの原因となっていることを示した。 現時点で用いているモデルは原子状態に対応する不純物準位が1次元タイトバインディングモデルと結合した系で、動的カシミール効果を一般的に議論するという観点からは簡単化された系であるが、外場駆動開放量子系のフロケハミルトニアンの複素固有値の構造について一般的に成り立つと思われる新しい結果が得られている。また派生した研究課題についても一定の成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
外場で駆動した開放量子系のフロケハミルトニアンの固有値は、原理的に、無限個存在する。これらの固有値のうちどの固有値が物理的に意味のあるものかを判断するのは一般的には難しい。そこでこれまでに行ってきた簡単なモデル系について引き続き研究を行い、この系の様々な物理量を計算し、各物理量を特徴づける固有値の分類を系統的に行う。これによりフロケハミルトニアンの複素固有値問題による解析手法の有用性を確かめる。また動的カシミール効果を議論するためのより現実的なモデルについて、フロケハミルトニアンの複素固有値問題を用いた解析手法の開発を行う。これらの研究を促進するために、原子・輻射場相互作用の専門家である海外研究協力者を招聘し、議論を行いながら研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
2017年3月にイタリア在住の海外研究協力者を招聘する予定であったが、先方の都合により3月に来日することができなくなった。そのため旅費・謝金として使用する予定であった金額分のあまりが生じた。同じ研究協力者を2018年の10月ごろに招聘する予定なので、そのときの研究協力者の旅費・謝金として支出する予定である。
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Research Products
(5 results)