2016 Fiscal Year Research-status Report
ペーストの記憶の外的擾乱に対する非線形応答を用いた破壊と材料物性の制御
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16K05485
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 教授 (60297778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
狐崎 創 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (00301284)
松尾 洋介 日本大学, 理工学部, 研究員 (40611140) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 破壊の制御 / レオロジー / 塑性流体 / コロイド / 超音波 / 固液混合材料 / モルタル / 材料物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、塑性流体である高濃度固液混合ペーストが流れや揺れや磁場の方向を記憶し、その記憶に従って亀裂の伝播しやすい方向が決まる現象のメカニズムを解明するとともに、この現象を破壊や材料物性の制御に応用する。 この現象を応用すると亀裂の伝播方向を制御できるが、基本的には割れやすくする制御なので、記憶を消去して割れにくい固液混合材料を作成することは大きな意義がある。我々の予備実験で超音波照射によりペーストの記憶を消去できることが見出されていたので、本研究では照射する超音波の周波数と音圧を広範囲に変化させて記憶を消去する条件を調べたところ、これ以上の音圧をかけないと記憶が消去できない閾値があることと、その閾値の値は周波数の増加関数であることがわかった。その閾値の大きさは超音波下でコロイド粒子が受ける応力から見積もることができることもわかった。 これまで理論的解析は揺れの記憶のみだったので、今回はペーストが流れを記憶する現象のシミュレーションを行った。レナードジョーンズ・ポテンシャルで相互作用するコロイド粒子が一様剪断流下でどのような構造を形成するか分子動力学法でシミュレーションしたところ、流れの方向に平行な縞状クラスターの形成が見られた。流れを記憶したペーストは流れた方向に平行に亀裂が伝播しやすいので、シミュレーション結果は実験結果を再現している。コロイド粒子が水中で帯電しているとクーロン斥力の影響で流れが記憶できないという実験結果もシミュレーションで再現できた。 外場ごとの記憶の構造の違いを調べるために、ペーストを揺らした後に磁場をかける実験と磁場をかけた後に揺らす実験を行い、揺れの記憶と磁場の記憶の違いを比較したところ、揺れの記憶は簡単に磁場の記憶に書きかわるが、磁場の記憶はなかなか揺れの記憶には書き換えられないことがわかり、磁場の記憶のほうが階層構造が深いこともわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では初年度に、「1.超音波照射によるペーストの記憶の消去の実験」、「2.記憶のメカニズムを探るための外場下でのコロイド・サスペンションのシミュレーション」と「3.各外場の記憶構造の違いを調べるための記憶の書き換え実験」の3テーマを実施する計画となっていた。現在までの進捗状況は、前述の「研究実績の概要」にて説明したようにおおむね順調に進展している。 テーマ1では超音波照射によるペーストの記憶の消去の実験を行い、記憶を消去できる条件を照射する超音波の周波数と音圧をパラメーターとして相図にまとめた。その実験結果は査読付き学術論文としてアクセプトされ2017年6月に出版予定である。記憶を消去するための音圧の閾値の見積もりも出来たので、次はシミュレーションも行うことで理論的な解明が今後の課題となる。 テーマ2では流れの記憶を再現するシミュレーションを行った。東大物性研の大型計算機にてLAMMPSという分子動力学計算シミュレーターを用いてシミュレーションすることにより、一様剪断流下のコロイドのクラスター構造の変化を調べ、流れの方向に平行な縞状構造の形成を得た。この構造は流れを記憶したペーストを乾燥させた時に現れる亀裂の伝播方向に一致するので、流れを記憶するメカニズムが数理的に解明されたことになる。この結果は現在学術論文として投稿準備中である。 テーマ3では記憶の書き換え実験を行い、記憶の書き換え易さ・にくさの違いから、各記憶のメカニズムの違いを抽出する研究を行った。これまでの研究では揺れの記憶と磁場の記憶の階層構造の違いを見出せた。記憶にはこのほかに流れの記憶もあるので、今後の課題としては流れの記憶と揺れ・磁場の記憶との書き換え実験を行う。 以上、研究実施計画で予定した3テーマについてきちんと結果が得られている状況なので、進捗状況としては順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、固液混合材料であるペーストが揺れや流れや磁場を記憶する過程と逆に超音波照射でそれらの記憶が消去される過程を詳細に調べ、各外場下での固液混合ペーストのレオロジー特性の変化を測定し、さらにX線CTを用いてペーストの内部構造の非破壊観察を行うことにより、ペーストの記憶の形成と消去のメカニズムを解明する。 具体的には、現在研究代表者は粘弾性測定装置(レオメーター)を所有しているので、この装置に備わっている温度制御や直流と交流の剪断場を印加する機能に加えて、超音波印加機能も加えることにより、各外場下でのレオロジー測定を実現する。記憶の本質は塑性にあるので、印加した外場の影響でペーストのレオロジー特性と塑性がどう変化するか調べる。また、島津製作所にてペーストのX線CT撮影を行うことにより、外場を記憶したペースト内のコロイド粒子の空間配置を直接観察して、各外場を記憶したペーストごとの内部構造の特徴と違いを見出す。これらの一連の研究により、塑性流体としてのペーストが外場を記憶しさらに超音波照射でその記憶が消去されるメカニズムを解明する。 メモリー効果の基礎研究と並行して、工学的な応用研究も重要である。壊れにくい頑丈な建築資材を製造することは自然災害に囲まれた我々にとっては重要な課題である。セメントやモルタルやコンクリートなどの建築資材は固液混合ペーストの一種であり、混ぜる時の振動や流し込むときに流れを記憶してしまうことによって製造過程で割れやすい方向ができてしまうことが避けがたいと予想される。そのため、まずはセメントなどの外場の記憶を超音波照射で消去できる条件を調べた上で、万能試験機を用いてセメント・サンプルなどの破壊強度を3点曲げ方で測定することにより記憶の消去が破壊強度の増加に有効に出ることを確かめ、さらに建築現場で超音波照射をしやすい手法を考案する。
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Research Products
(9 results)