2017 Fiscal Year Research-status Report
量子探索アルゴリズムの加法分解スキームとその並列探索問題への応用
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16K05489
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
外山 政文 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 教授 (60180189)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子情報 / 数理物理 / 量子アルゴリズム / 量子探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の基本的な目的は、全ての標的割合に対して探索の成功確率が1という強い条件の下に、グローバー型の繰り返し量子探索の探索スピードを実質的に加速する量子探索アルゴリズムの新しいスキームを構築することである。この目的に沿って本年度は、昨年度の研究を更に進展させ、グローバー量子探索アルゴリズムの拡張版である単一位相整合量子探索アルゴリズムを数学的に「加法分解」するスキームの導出について更に新しい結果を得た。 2013年に発表した論文で、グローバー探索アルゴリズムを拡張した単一位相整合量子探索アルゴリズムの完全な解析解を得た。この解析解を用いることにより全ての標的割合に対して探索の成功確率が1という条件を満足する整合位相因子を事前に決定できる。そこで本研究では、先ずこの単一位相整合量子探索アルゴリズムの「加法分解」について研究を行った。 昨年度までの研究で、繰り返し探索の単一位相整合量子探索アルゴリズムの「加法分解」の基本的な形式とその究極的な縮約形を導出した。これは、ある位相因子を係数とした一回探索のカーネル演算子の和として繰り返し探索を分解する形式である。この「加法分解」の構成要素であるカーネル探索演算子自体は言うまでもなくユニタリーである。従って、カーネル探索演算子からなる並列処理スキームへの応用の可能性が考えられ、現在のところ幾つかの方策を検討している。 一方、この「加法分解」の形式は、「加法分解」形式全体の演算子としては2次元表示の場合のみユニタリーであるという問題がある。本年度はこの問題を踏まえて、任意の次元に対するユニタリーゲートの構築について調べた。現在までの結果についてはarXiv:1706.01519v1 [quant-ph] 5 Jun 2017 に登録し、Journalに投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗状況は概ね以下の通りである。本年度の研究目標は、前記の「研究の実績の概要」の項目で記したように、「加法分解」の基本形を用いて並列アルゴリズムを構築することと、「加法分解」の縮約形を用いてユニタリーゲートを構築することであった。 加法分解の基本形を用いた並列アルゴリズムの構築については現在尚進行中である。この問題の核心は、k回探索の場合、k個のN=2^n(n: 量子ビット数)次元の探索空間を結びつけるユニタリー変換を如何に構築できるかというところにあり、現在様々な角度からこの問題について調べている。一方、「加法分解」の縮約形を用いたユニタリーゲートの構築については、一つの具体的な形式を構築した。これまでの結果について、論文としてまとめarXiv:1706.01519v1 [quant-ph] 5 Jun 2017 に登録し、Journalに投稿中である。現在、更にそのユニタリー変換をより演算子形式に表す方法を調べている。 本年度は、海外研究協力者としてMcMaster大学(カナダ)からY. Nogami (野上幸久)氏とW. van Dijk氏を招聘し共同研究を行った。ここで、両氏の都合で、招聘期間に変更が生じ、両氏の招聘期間が昨年度(平成28年度)の終わりから本年度(平成29年度)に跨ぐことになった。そのため、平成28年度使用予定の予算のほぼ半額を本年度(平成29年度)に繰り越した。 更に、昨年度に引き続き、本年度末にY. Nogami (野上幸久)氏とW. van Dijk氏を招聘する予定であったが、両氏の都合により平成30年の秋に招聘することになったため、本年度の予算の招聘費相当額を来年度(平成30年度)に繰り越すことになった。以上のように、招聘期間については変更を強いられつつあるが、海外共同研究者との共同研究もほぼ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、繰り返し探索の単一位相整合グローバー演算の「加法分解」が基本的に可能であることを明らかにし、その「加法分解」に基づいて、探索スピードを実質的に短縮するユニタリーゲートの構築を行った。今後、このユニタリーゲートの改良版の構築について研究を継続する。一方、加法分解を用いた並列処理アルゴリズムの構築については、先の項目で述べたように、探索空間を結びつけるユニタリー演算子(ゲート)の構築がネックになっていて今後集中して研究する。 これまでに導出した「加法分解」スキームは、「加法分解」演算子の展開の各項はユニタリーであるが、「加法分解」全体の演算子は、探索状態のノルムは保存するが、2次元の場合を除いてユニタリー性を破るという問題がある。これは、前期項目「現在までの進捗状況」で記したように、一回探索カーネル演算子とそのエルミート共役演算子の和の演算子に対する固有値方程式を利用していることが原因である。一方、2次元表示の場合には、2次元のケーリー・ハミルトンの定理が探索のカーネル演算子の2次元表示に対して成り立つため「加法分解」した演算子がユニタリー性を保つ。これまでの研究では、この「加法分解」の縮約形を用いて一般的なN次元空間で改めてユニタリーゲートを構築した。このような事情を踏まえ、今後、N次元でのケーリー・ハミルトンの定理を用いて繰り返し探索演算の「加法分解」の導出を試みる。もし、このような「加法分解」が実現すれば、並列アルゴリズムの構築がより容易になると予想される。 これらの研究は基本的には単独で行うが、前記項目「現在までの進捗状況」でも記したように海外共同研究者とも適宜共同研究を行っていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: 本年度末(3月)に、海外研究協力者としてMcMaster大学(カナダ)からY. Nogami (野上幸久)氏物理天文学科名誉教授)とW. van Dijk氏(物理天文学科客員教授)の両氏の招聘を予定していた。 しかしながら、両氏の都合で、両氏の招聘期間が来年度の(平成30年度)の秋にずれ込むことになった。そのため、本年度使用予定の招聘費用を来年度に繰り越し使用することにした。 使用計画: 前記の理由により、本年度(平成29年度)の繰越金が400,000円となった。次年度(平成30年度)請求額が500,000円であるため、合計900,000円が次年度使用予定額である。それらは、主として、次年度の後半に招聘予定の海外共同研究者の「旅費・滞在費」、及び、研究遂行に伴う「人件費・謝金」として使用する計画である。
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