2018 Fiscal Year Research-status Report
量子探索アルゴリズムの加法分解スキームとその並列探索問題への応用
Project/Area Number |
16K05489
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
外山 政文 京都産業大学, 情報理工学部, 教授 (60180189)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 数理物理 / 量子情報 / 量子アルゴリズム / 量子探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでに導いたグローバー型の繰り返し探索演算の加法分解に基づいて、探索スピードを実質的に短縮する探索演算形式の加法的ユニタリー変換の構築と加法分解に基づく並列処理アルゴリズムの構築について研究を行なった。 昨年までの研究で、グローバー型の繰り返し探索演算の加法分解形式に基づいてユニタリー演算子を構築する一般的な数学的スキームを提案した(arXiv:1706.01519v1 [quant-ph])。本年度は、この一般的なスキームに基づき、より探索演算形式の加法形式ユニタリー演算子の構築を行なった。そして、探索の初期状態とその直交状態を識別する一種のフィルタリング演算子を導入することにより、自然な形で加法分解形式のユニタリー探索演算子を構築できることを示した。この変換の特徴は、繰り返し型の探索演算子と全く同じ探索の終状態を与えるが、その行列表現が繰り返し探索演算子の行列表現に比べて一般的に簡単であることにある。これは、探索の実時間の短縮に繋がると期待できる。本研究では、2量子ビットと3量子ビット探索空間の場合について、この加法的ユニタリー変換から探索の量子ゲートを得る具体的な方法を示した。そして、標的状態が複数の場合には、加法的ユニタリー変換から得られる量子ゲートの複雑性が標的状態がエンタングル状態であるかどうかに大きく依存することを明らかにした。これらの結果は、Canadian Journal of Physicsに印刷中である。 一方、繰り返し型探索演算の加法分解に基づいた並列処理アルゴリズムの構築については、量子回路によるスキームについて調べた。本年度は、これまでにその基本スキームについて一つの有意義な形式を見出したが、探索の成功確率に関する問題が未解決となり、今後この問題を解決すべく研究を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗状況は以下の通りである。本年度の研究目標は、前項の「研究の実績の概要」で記したように、探索スピードを実質的に短縮する加法的ユニタリー変換の改良版と繰り返し探索演算の加法分解に基づいた並列処理アルゴリズムの構築であった。 探索スピードを実質的に短縮する加法的ユニタリー変換の改良版については、その構築に成功した。この結果については論文として纏めCanadian Journal of Physicsに採択され既に電子版が公表され現在印刷中である。 一方、加法分解に基づいた並列処理アルゴリズムの構築については、量子回路による基本スキームについてある有意義な形式を見出した。しかし、現在のところ探索の成功確率の問題が未解決の状況にある。それは、グローバー型の探索演算子の加法形式と異なる形の加法形式を本来の加法形式に変換するユニタリー演算子を構築する簡便な方法が今のところ見つからないためである。原理的にはそのようなユニタリー演算は必ず存在し、一般的な数学的スキームは分かっているが、量子回路として最適な変換を構築する必要があり、この点が未解決の状況である。次年度はこの問題を追究する。 本年度は、海外研究協力者としてMcMaster大学(カナダ)からW. van Dijk氏を招聘し共同研究を行った。本年度はW. van Dijk氏とY. Nogami氏の二人を招聘し共同研究を行う予定であったが、Y. Nogami氏の都合で氏の招聘が中止となり研究計画の変更を強いられた。 以上のような理由で、本年度の招聘費の半額を来年度に繰り越すこととし、そのための研究計画変更を申請し承認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、繰り返し探索の単一位相整合グローバー探索演算の加法分解形式を導き、その加法分解形式に基づいて、探索スピードを実質的に短縮する加法的ユニタリー変換のより探索演算にふさわしい形式の構築に成功した。残された問題は、探索演算の加法分解に基づいた並列処理アルゴリズムの構築である。次年度はこの問題を集中して研究する。 上記の問題解決の方策は以下の通りである。前項の「現在までの進捗状況」で記したように、量子回路によるスキームについて有意義な形式を見出した。これは、補助ビットとコントロール・ユニタリーゲートを活用した形式であり以下のようなステップからなる。補助量子ビットと探索の初期状態を量子回路に入力し、コントロール・ユニタリーゲートで探索演算の加法分解形式と、それとは異なる形の加法形式の重ね合わせ状態を生成し、補助ビットの測定により選ばれた重ね合わせ状態のそれぞれに対して最適なユニタリー変換を行うことにより、最終的に全ての重ね合わせ状態を目的の加法分解形式に変換するスキームである。現在のところ、この最終ステップのユニタリー変換を如何に量子回路に最適な形で実現するかが最大の課題である。数学的には(或いは原理的には)このユニタリー変換が存在するのは分かっている。即ち、入力状態と出力状態に関するそれぞれの正規直交状態系を2セット準備すれば良い。しかしながら、このような一般的な方法はこの量子回路によるスキームには適当ではない。本スキームの成否はこの最終ステップでのユニタリー変換を如何に量子回路に最適な形で構築するかにかかっている。この量子回路スキームは、量子テレポーテーションの量子回路と類似性がある。次年度はこの問題に集中して取り組む。 これらの研究は基本的には単独で行うが、前記の項目「現在までの進捗状況」で記した海外共同研究者とも適宜共同研究を行って行く。
|
Causes of Carryover |
本年度は、McMaster大学(カナダ)から二人の海外共同研究者を招聘する予定であった。しかしながら、そのうちの一人が健康上の理由で来日できないことになり、最終的に一人を招聘し共同研究を行なった。そのために、招聘者二人の招聘費の半額が未使用になった。 本年度に達成目標であった研究計画は概ね達成できその成果を論文として公表した。一方、繰り返し探索演算の加法分解に基づく並列処理アルゴリズムの問題については、有意義な量子回路スキームの着想を得た段階で本年度研究終了となりその課題達成を次年度に持ち越すことになった。 以上のような状況で、本年度の未使用額を次年度に繰り越し、上記の問題を継続研究することになった。繰り越し研究費は、McMaster大学への出張費、国内学会等への出張費、(国内外)研究者の招聘費、及び消耗品費等に使用する計画である。
|