2016 Fiscal Year Research-status Report
クラスター非平衡緩和法の量子モンテカルロ計算への応用
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16K05493
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
野々村 禎彦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (30280936)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 裕介 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (50361663)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 非平衡緩和 / ループアルゴリズム / Binder比 / ボンド希釈系 / 無限レンジ模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) クラスター非平衡緩和法を量子モンテカルロ計算に応用する目的は、量子系の基底状態に特有の新規量子相転移を見出すことである。この計算では、虚時間方向の余剰次元を導入することになり、扱える系のサイズは古典系の場合よりも制限されるため、解析の精度を上げる必要がある。そこで、Binder比に基づいた新規解析手法を開発し、古典イジング系で有効性を確認した。この手法によって相転移温度・緩和指数の推定精度を1桁以上上げることに成功した。 (2) Binder比に基づいた新規解析手法をボンド希釈した2次元イジングモデルに適用し、従来手法では困難だった希釈臨界点近傍までの解析を可能にし、緩和指数はボンド希釈に対して連続的に変化することを見出した。これらは、量子希釈系の量子相転移研究の基礎となる結果である。 (3) ダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール・ダイマー量子相転移を、(a)コラムナー型のダイマーパターンに関して、(b)高温極限に相当する古典的なランダム状態から出発して、(c)標準的なループアルゴリズムを用い、(d)温度の逆数を系のサイズに比例して取り、(e)Binder比の有限サイズスケーリングを行うことで、定量的に十分な精度で解析できることを示した。 (4) 解析が比較的容易となる無限レンジ模型を用いて、イジングモデルおよび3状態ポッツモデルのクラスター更新による非平衡緩和を数値的・解析的に調べた。イジングモデルについては粒子数の1/4乗に比例する緩和時間を持つ指数緩和、3状態ポッツモデルについては粒子数に比例する緩和時間に比例する指数緩和を示すことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クラスター非平衡緩和法の量子モンテカルロ計算への応用に関しては、基本的なコードを書き上げ、ダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール・ダイマー量子相転移に適用して、この相転移が本手法のベンチマークにふさわしい対象であることを確認した。当初の目標だった手法の最適化は次年度に持ち越されたが、最も時間を要する基礎コードの開発は終了している。この過程で、クラスター非平衡緩和法全般に適用できる、Binder比を用いた高精度な新規解析手法を開発した。この新規手法を用いれば、2次元ボンド希釈イジングモデルの相転移を希釈臨界点近傍まで精度良く調べられることもわかり、最終年度の目標である量子希釈系の研究を先取りする成果も得られた。総合的に見て、研究は順調に進展している。 クラスター非平衡緩和法の理論的基礎付けに関しては、無限レンジ模型を用いて二次相転移を示すイジングモデルと一次相転移を示す3状態ポッツモデルについて無限系の非平衡緩和関数の解析的表式を導出するとともに、有限サイズ系のサイズ依存性を数値的に求めた。この緩和関数の表式は、通常の初期緩和の漸近型ではなく全時刻の表式であり、情報量が格段に多く有限次元系にも適用できると期待される。1次元長距離相互作用系はサイズ補正が複雑で有限次元系への単純な拡張は難しいことがわかったが、当初の見込みの問題点が早期に判明したのはむしろ好ましく、研究は総じて順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
クラスター非平衡緩和法の量子モンテカルロ計算への応用に関しては、まず、ダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール・ダイマー相転移を用いて、クラスター非平衡緩和法を用いた量子相転移の解析手法を最適化する。具体的には、初期状態の最適化を行い、ループアルゴリズム以外の量子モンテカルロ法を採用した場合の振舞と、測定温度のサイズ変化に対する一般的なスケーリング法(量子ランダム系で動的臨界指数z>1になる場合に特に重要になる)を検討する。初期状態を最適化すれば、Binder比以外を用いた解析も可能になる。ダイマーパターンを変えても量子相転移の普遍性は変わらないが、パターンのランダム平均を取れば普遍性は変わり、希釈とは異なったランダム性の導入として、最終目標である量子希釈系の比較対象になる。未解決の量子相転移への応用としては、非閉じ込め量子相転移か弱い一次相転移かの決着が付いていないJ-Qモデル(2次元反強磁性ハイゼンベルク相互作用と4体相互作用の競合系)への応用が特に有望である。この系は緩和の遅さが難点だが、平衡化以前のデータを利用するクラスター非平衡緩和法と相性が良い。 クラスター非平衡緩和法の基礎付けに関しては、無限レンジ模型の結果は有限次元系の緩和過程後期には適用できるという予備的結果を得ているが、緩和初期の振舞については説明できておらず、この解明が課題である。また古典系の基礎付けを踏まえて、その成果を量子系にも拡張する。
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Causes of Carryover |
野々村は、仏リヨンで開催される国際会議STATPHYSで講演を行うための出張を予定していたが、直前に発生したテロのため、研究機関から渡航自粛要請が出され、出張できなかったため(ただしポスター講演であり、事務局に依頼しポスターは掲示された)。その残額の一部でクラスター計算機保守用の無停電電原装置を購入したが、全額は使い切れなかった。富田は、参加予定の国内会議が本年度は開催されなかったため、国内旅費を全額は使い切れなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
野々村・富田とも研究は順調に進展しており、次年度の国内会議講演に伴う旅費・論文投稿料は予定よりも増えることが予想される。この費用に充てる計画である。
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Research Products
(5 results)